4日目

第17話 朝が来た


 月が沈んで日が昇り、チャペルの中に朝の明るい光が差し込む。


 不思議な形をかたどったステンドグラスを通った光が、あたりを色鮮やかに照らしていく。もう照明がなくても隅々まで明るくなり、早朝ということもあって、どこか気持ちいい。


 ヨウスケとイツキは一度着たタキシードを脱いで、動きやすい制服でチャペル内の飾り付けに勤しんでいた。


「これでどうだろうか? うーん……たしか俺の記憶ではこんな感じだったと思うんだけど……」


 衣装を決めてから始めた、チャペル内を装飾する作業。

 疲れず、眠気も空腹もない体で、夜通し続けた結果、準備室内で見つけたリボンや華美な花で味気なかった会場が彩られた。


 ヨウスケの記憶を頼りに、装飾をしたが、それなりに華やかになっている。自分のセンスに不安があったが、それはイツキによって補えたことで、見事に完成させることができた。


「うん。いい感じだと思う。あんな静かな感じだったけど、これでかなり結婚式っぽくなっているんじゃないかな? 本当の結婚式は僕も知らないけどね。これであとは僕たちも、身支度を整えるだけだね。まだ早いけども、もう準備しておこっか?」

「そうっすね。そうしましょうか」


 あとは自分たちが着替えれば、形だけの結婚式の準備完了する。

 女性陣を待たせないように、早め早めの行動を心がけているのはイツキの方だ。ヨウスケはギリギリでも間に合えばいいとさえ考えている。


 そんなヨウスケへ、女の子を待たせないようにすることは大切だと教え込ませた。ヨウスケもそんなものかと納得し、今に至っている。


 衣装ルームへ移動し、既に選んでいたタキシードに再び袖を通す。

 二度目になる服は、着方にも困らず、スムーズだった。


「さぁ、準備はできたかい? 行こうか」


 イツキのタキシードは、淡いグレーであった。

 イツキの性格を表したかのような優しい色合い。中のベストも優しいピンク色。

 人には合う、合わないの色があるが、この色はイツキにとてもよく似合っている。同じものをヨウスケが着たときには、胡散臭い人になりそうであった。


 二人の年の差はあってないようなもの。ほとんど年齢の変わらないはずなのに、まだまだ学生感あふれるヨウスケと違い、イツキはとても大人っぽく見えた。

 外見にもあふれ出る優しさが、ヨウスケの心を温める。


「あ、髪の毛もちょっと整えたいね……ワックスはー……あったあった。正装だから、爽やかにスタイリッシュに……?」

「スタイリッシュってなんです? 今のままでも……」

「ダメダメ! ほら、こっちに来て座って。僕が爽やかに仕上げよう」


 イスに座るよう促されて、しぶしぶヨウスケは座る。すると、その後ろに立ったイツキがどこかで見つけてきたクシとヘアワックス、そしてヘアスプレーなど、ヘアスタイル整えるための道具一式が入った箱を持っていた。


「爽やか、爽やかーっと言えばオールバックかなー」

「オールバック!? まじ、すか? 俺、デコがでるような髪型ってやったことないんすけど……」


 ヨウスケの前髪は眉毛にかかるほどの長さ。額を出すのは恥ずかしくて、挑戦したことがない。


「似合うから大丈夫だよ」

「ええーっ……」


 ヨウスケの嫌がる様子をスルーし、イツキは気合いを入れてセットし始めた。イツキの体温が、セットされている自分の頭から伝わる。

確かにここにいるのに、すでに死んでいる。そして、もうこの体温とは一生の別れを迎えることになる。そう考え始めたとき、胸が苦しくなり、目が熱くなってきたが、何とかこらえて平静を装った。


 十分ほどかけてヨウスケの髪をセットした後、自らの髪もセットしたイツキ。二人とも前髪をかき上げたスタイルは、さらに大人の雰囲気を醸し出している。


 ほんわかした気持ちから一瞬で恥ずかしい髪にセットされたと落ち込んだヨウスケだったが、イツキのべた褒めのおかげで何とかセットした髪を保っている。それでも恥ずかしさがあり、落ち着かない様子でチャペルの最前列に座り、女性陣が来るのを待つ。


 いつになっても来ない二人を待ち続けている間、やることがなかったのでしりとりをしながら待っていた。


 しりとりだけでは飽き足らず、スマートフォンで撮影会をしたりして待機。その頃には既に日は高く上っており、近くの学校からお昼を告げるチャイムが聞こえた。それは時刻と同時にイツキとエミリの最期が近いことを示していた。


「あ、そろそろきたかな?」

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