第29話 頼朝の声

 前回、前々回と頼朝の歌をピックアップしましたので、頼朝つながりで、今回は「頼朝の声」です。


 筆者は『ふところ島のご隠居』に、頼朝を「美声の持ち主」として書きましたが、それには一応、根拠があります。


 まず、『平家物語』に、頼朝の描写があります。



「顔大きに、せいひきかりけり。容貌優美にして言語分明なり」

                    (覚一本八巻・征夷将軍院宣)



 ……頼朝は、顔が大きく、背が低い。容貌は優美で、言葉がはっきりとして、わかりやすい。


 他の平家物語諸本を見ても、だいたいこの記述は変わらず、『吾妻鏡』や、慈円の日記『愚管抄』などを見ても、理路整然とした喋りは、頼朝のお家芸と言ってもいいくらいですので、その声もまた、人びとを惹きつけるものを持っていたのだろうと想像しました。



 伊豆の大仁おおひと町には、こんな伝説があります。「頼朝が叫ぶと、栗の木が実をつけた」というのです。これは大仁町宗光寺の「舟ヶ洞の栗」の伝説です。


 もうひとつ、「頼朝の一声で、木が石になった」というのもあります。大仁町神島の小室の棒石山の伝説です。


 これらの伝説から、平家物語の『言語分明』と合わせて、頼朝の声は聞き取りやすくはっきりとして、大きく、神秘的な威厳があったのではないか、と想像しました。

 多くの人びとを惹きつける声だったというのは、間違いのないところでしょう。


 二十年間の流人時代に、たくさんお経を読んで過ごしていた人ですので、読経どきょうで咽喉が鍛えられた面もあったのではないかと思います。

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