第28話 頼朝の和歌2 ~ みちのくの
頼朝の歌、二首目を見ていこうと思います。
建久六年(1195)、頼朝は鎌倉から上京して、奈良東大寺の大仏復興の
大仏は源平合戦で平家に焼かれ(1181)、頭部と手が焼け落ち、金箔ははがれ、欠損・破損していたのですが、それがようやく修造されたのです。
この在京の折、頼朝は
まずは慈円が、手紙に歌をしたためて送ります。
思ふこと いさみちのくの えぞいはぬ
壺の石ぶみ 書き尽くさねば
「……思うことは 心の奥にいろいろとあるのですが、どのように言葉にすればよいのか、迷います。
私の気持ちをお伝えするために、この手紙に、言葉を尽くしてたくさん書こうと思いますが、どうか失礼なやつとは思わないでくださいね」
みちのく …… 東北のこと。
えぞ …… 北海道のこと。「えぞいはぬ」で、「どう言ったらよいでしょう」。
壺の石ぶみ …… 青森県上北郡(旧・都母村)にあったと伝えられる古い石碑。
「石ぶみ」に「ふみ(手紙)」をかける。
おそらく頼朝と慈円のふたりのあいだに、なにか奥州にまつわる案件があったのでしょう。慈円は、歌のなかに奥州の地名をたくさん散りばめて、楽しい雰囲気、なごやかな雰囲気を演出したのです。
この手紙と歌を受けて、頼朝もおもしろく思ったのでしょう、慈円の歌に、さらにふたつ、奥州の地名を加えて返事をしました。
頼朝の遊び心です。
書き尽くしてよ 壺の石ぶみ
「……言わないで思っているだけならば、こちらはお気持ちを知ることができません。書き尽くしてくださいよ お手紙に。」
いはで …… 「岩手」と「言わないで」をかける。
しのぶ …… 「
結果的に、北海道・東北の地名が五つも織り込まれた、楽しい歌になりました。
この優雅な遊び心と、巧みさが買われて、この歌も『新古今和歌集』に選ばれました。
頼朝と慈円のタッグ技ですが、たいへんに機転の利いた、素晴らしい歌だと思います。
ここでは男どうしの歌のやり取りなのですが、シチュエーションを男女の恋の歌としても、読むことができます。頼朝や慈円の本人たちも、そういう面白さをわかって、やり取りしているものと思われます。
お互いにわざと、恋文をパロってみたりして、楽しい空気感のやりとりをしているわけです。
そして、後鳥羽院をはじめ、『新古今和歌集』のスタッフたちも、その空気感を面白く思って選んでいるわけです。
まさにこの空気感こそ、「和歌」の醍醐味と言えるのだと思います。
◆
ブラタモリ・鎌倉(2024/2/3)、おもしろかった! 基礎知識編という感じでしたね。毎回、地学的な側面からアプローチしてくれるのが興味深いのですが、頼朝は土地の水利の計画を入念に行っていた、というのが印象深かったです。
2/8(木 11:50)再放送あります。
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