32点目 「タカハシ、キレる」       【4/20(水)】

 いつもはその日の天気とか軽い前置きから書き始めるようにしているのですが、今日はこのまま本編を書かせて下さい。

 大抵いつも何も決めずに書き始めて、前置きを書いてる最中にその日のお話を決めたりしてるのんですけど、今日はもうお話の題材が決まってます。

 今日のお話は、まぁ題名にある通りです。

 いやー、久しぶりにカチンときましたね(笑)

 私はかなり温厚な方だと自負しているんですが、ちょっと今回ばかりは堪忍袋の緒が切れました。

 昨日お仕事中に少し嫌な出来事がありまして、今日はそれを書かせて頂こうかなと思います。

 まだ腹の虫が収まらないので、ちょっと今日は粗雑な物言いになるかもしれません。なるべく善処しますが、多少のことはお目こぼし頂ければと思います。

 事の起こりは、昨日の夜のこと。

 はっきり確認はしてないですが、たぶん22時前ぐらいでしたかね。

 その時はちょうどお客様の多いタイミングで、私とサキちゃんはそれぞれレジでお客様の対応に追われていました。

 私が一人、また一人とお客様をさばいていき、何人目かのお客様のお会計が終わった時。ふと会計待ちのお客様の列を見ると、先頭には30代ぐらいの男性が立っていらっしゃいました。

 このお客様は入店されてからずっと手元のスマホを覗きこんでいらしたので、その時から、ちょっと変わったお客様だなー、と何となく記憶の片隅に残っていました。

 さて、前のお客様がお帰りになって私のレジが空いたのに、くだんのお客様はレジにいらっしゃいません。こちらにお気づきになってないのかなぁー、と思い、私はお声がけすることにしました。分かりやすいように、左手を上げて。

 「お待たせいたしましたー。こちらのレジどうぞー」

 店内が混雑しているタイミングだったので、いつもよりも大きめの声を出しました。加えて少し高めのトーンにしてるので、店内どこにいてもまず聞こえないことはないはずです。

 が、そのお客様は何の反応もお示しになりません。お客様との距離は、せいぜい5mといったところ。見たところイヤホンもなさっていません。

 (絶対に聞こえてないはずはないんだけどな…)

 気のせいかもしれませんが、お声がけした瞬間、視線をこちらから逸らした気が…。

 間髪入れずに何回も大きな声を出しては騒々しいだけですので、私はそのまま少しそのお客様の様子を窺っていました。そして少し間を置き、もう一度同じお声がけをしました。

 ですがやはり、こちらのレジにいらっしゃる気配はありません。

 (あれ、もしかして…)

 この時から既に、悪い予想が頭の片隅によぎっていました。

 その直後、サキちゃんの方のレジが空いたのを見ると、そのお客様は足早にサキちゃんのレジの方に向かわれました。

 はっきりとは聞こえませんでしたが、サキちゃんの「こちらどうぞー」という声かけに、何かお言葉を返されたような気が。

 私は別のお客様のレジ対応をしながら、サキちゃんとお客様とのやり取りに聞き耳を立てていました。

 聞こえてくるのは極々ありきたりなやり取りでしたが、私には一つ引っかかることがありました。

 (お客様の声、何か変だな…。声のトーンが高すぎる)

 そう、男性の声にしては異様に高い話し声だったのです。それも地声というより、緊張して上擦った声に近い感じでしたね。

 結局そのまま、そのお客様は何事もなくお帰りになられたようでした。

 改めて思い返すと、入店した時から不思議な行動が目立つお客様でした。

 まず、神経質なぐらいずっとスマホの画面をご覧になっていたこと。

 その状態で、だいたい10分ぐらい店内を見て回っていらっしゃいましたね。

 そして、レジ周りをウロウロされたり、レジ待ちの列に並んでは抜けてを繰り返していたこと。

 レジ周りをウロウロされている姿が見えたので、私が作業の手を止めてレジに向かうと、くるりと私に背を向けてまた店内を物色する…、といった場面もありました。

 冒頭のレジを待たれていた場面も、何回かレジ待ちの列に並んでは抜けてを繰り返した後のことでした。

 これらの状況証拠から導き出される結論は、「恐らく私は意図的に無視された可能性が高い」ということ。断言はこそできないものの、全ての言動を見る限り、それが一番自然な答えな気がしました。

 レジ待ちのお客様がいなくなって、そんなことをぼんやりと考えていると、レジ対応を終えたサキちゃんが私のもとにやってきました。

 「いやー、さっきのお客様すごかったね。タカハシ君ガン無視されてたやん」

 「あー、やっぱりあれ無視されてたんだ」

 どうやらサキちゃんも、私と同じように考えているようです。

 「あれはどう考えても確信犯でしょ。会計終わった時、ニコニコしながら私のことガン見してきたもん」

 「マジ?」

 「あとさ、店内うろちょろしてる時からすごく私に対する視線を感じたんだよね。最初に目が合って『いらっしゃいませ』ってお声がけした後からかな。フツーに気色悪いからやめてほしい」

 実はそれは、私も同じように感じてはいました。ただ、気のせいだろうと思ってそんなに注意してなかったのです。

 「んで、サキちゃんにレジをしてもらいたいがために私を無視したと」

 「だとしたら、さすがに店員のこと人として見てなさすぎだよね。途中で列出たり入ったりしてたのも、たぶんそのためな気がするけど」

 この時、私の中の何かがプチンと切れたような気がしました。

 「アイツ、もし本当にそうなら次きた時は容赦しねぇ…」

 制服を着てることも忘れて、つい舌打ちまでしてしまいました。私滅多に人前で悪態ついたりとか舌打ちしたりしないんですけどね…。

 「今お客様いらっしゃらないからいーけど、仮にも制服着てるんだからね」

 「分かってるって」

 「まぁ、今回の件はタカハシ君に同情しちゃうな」

 「でしょ? 事情はどうであれ、さすがに今回のは腹立ったわ」

 私がまだ青二才だからでしょうか、その後も昨日はお仕事中ずっとイライラしてましたね。 

 もちろんお客様にはそれを悟られぬようにしてましたが、バックヤードでは終始サキちゃんと愚痴り合ってました。

 果たして真相はどうなのか。

 それを知る術はありませんが、ここまで状況証拠がそろっていると、我々の推測はそう外れていない気がします……。

 それとも、我々が気づかぬ内に何かお気に障る言動をしてしまったのか。

 どちらが正しいのか、はたまた全く違う第三の真相があるのか。

 私の性分なのかもしれませんが、こういうのって何かモヤモヤするんですよね……。

 この時だけはいつもみたいに、お仕事だからしょーがない、って受け流すこともできませんでした。

 私もまだまだ精進が足りませんね……(笑)

 さて、ここまでで既に過去最長の文量となっております。

 このようなお話をここまでご覧頂いた皆様、本当にありがとうございます。

 さぞや稚拙でお目汚しな話だったかと思います。

 また明日は、少し軽めのお話にしましょうかね。

 それでは、またのご来店心よりお待ちしております。

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