桃子ちゃんの中華風お茶漬け

「じゃあ次は私ね。Let’s cooking!」


パン! と手を叩いたのは紡。彼女のカレシは一つ下の人生フルスロットル少女桃子である。二人は女性同士だが、お互いの間ではっきりと桃子がカレシ紡がカノジョと決まっている。

そんな二人の馴れ初めは夏介の紹介だった。三年生男子で一番の有名人と三年生女子で一番の有名人ということで人気者同士縁が無いではなかった紡のところに、ある日夏介が仲良し集団の一人である桃子を連れて来たのだ。

学校一の秀才として彼女を赤点から救済せしめた紡は、それ以来桃子から「紡さん紡さん!」と慕われるようになった。そして男にも女にも動物にも神仏にも見境無くモテるタチだった紡は、多分に漏れず桃子にも惚れられ熱烈なアタックを受け今に至る。


「桃子ちゃんは何事にも落ち着きが無いので、そのイメージでサラサラ食べられるメニューにします。その名も『桃子ちゃんの中華風お茶漬け』!」

「烏龍茶かい?」

「いやスープで」

「……それは中華粥では?」

「雑炊だべ」

「ピラフ〜?」

「流石にピラフではない」


紡は自前の鍋を取り出した。


「これは?」

白湯パイタンスープです。美味しいのを作るには鶏ガラ、ネギ、生姜を何時間も煮込まなければならないので仕込んできました。無理な人は市販の白湯の素でいいよ」


紡は白湯スープを沸かすと生餃子を取り出した。


「水餃子ですか?」

「No, no. この餃子を分解します」

「バラバラにしちゃうの?」

「そう。皮と餡に分けて、それぞれ細かく」


そして具材が煮えたら丼にご飯を装ってスープを掛けて、


「胡椒を振ったらはい完成! 『桃子ちゃんの中華風お茶漬け』! I did it!」


熱いので焦って掻き込まないようにそっと、


「お茶漬けのイメージと違ってコッテリしてますね。活発でエネルギーが必要な桃子さんにはピッタリなのではないでしょうか」

「元々餃子は白湯と相性いいんだけど、ほぐしてあるから餡に一層味が染みてるんだわ。しかもスープにも味が溶けてるし、細かくなって掻き込む邪魔にもならないべな」

「餃子の皮が雲呑ワンタンみたいで美味しいねぇ〜。ラーメンに雲呑入ってるのもあるけど、お米と合わせてもちゅるちゅるで美味しいんだねぇ」

「ふふふ、手軽で美味しいものを作ってしまった」

「白湯を市販の素にすればですが」

「でもこれを中華粥じゃなくてお茶漬けって言い張る理由は?」

「桃子ちゃん剣道やってるから日本っぽく言いたかった、と私は供述しており……」

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