夏介さんのハジシビペペロンチーノ

「では頑張らせていただきます」


雰囲気は清楚系なのに割烹着よりエプロンが似合うのはやはり花の女子高生……、な澪。彼女のカレシは学校一のモテ男、夏介である。

二人の馴れ初めは保健室でのことだった。図書委員になれなかったので保健委員になっていた澪のところに、木から落ちて怪我した愚かな猿……、もとい夏介がやって来たのである。

瞬間夏介は恋に落ちた! あちこち落ちて忙しい奴である。彼は澪が面倒くさがった保険医の代わりに傷口を消毒して絆創膏を貼ってくれる間、延々と愛を囁き続けお付き合いを申し込んだのである。

しかし澪はイケメンだったらなんでもいいタイプではないし学校一のお騒がせ者な夏介はうるさくて嫌いだし意味も無く木に登って最終的に怪我するようなアホは論外なのでお断りした。

しかし夏介は諦めなかった。その日の内にもう二回出直してきてフラれた挙句、それから三百六十五日一日複数回の玉砕攻撃を仕掛けるようになったのである。

それから彼は


「今日の草野球の試合でホームラン打ったら付き合ってくれ!」

「嫌です」


で五打席五ホーマーでフラれても、夜の女子寮に告白に行こうとして風紀委員長の梓に変態撲滅アトミック回し蹴りを叩き込まれて三日くらい三半規管がおかしくなっても、黒魔術で呼び出した悪魔に「無理です」と言われても、テレビ番組の企画でエベレスト登頂を果たし頂上からの全世界中継告白でフラれても挑戦を続けた。

そして、


「澪が愛を受け取ってくれるまで俺は眠らねぇ!」


と女子寮二階の澪の部屋の窓の下で紡のギター伴奏とともにラブソングメドレーを行った夜、遂に、


「分かりました……。付き合うので勘弁して下さい……。ですので寝させて下さい……。ギターの人も可哀想ですし……」


と午前四時三十四分、愛を勝ち取ったのである。

ちなみに風紀委員長の梓を食い止めるために桃子は犠牲になった。


「彼は色々とうるさい輩なので、料理もそちらをイメージしようかと思いました。というわけでこちら、『夏介さんのハジシビペペロンチーノ』です」

「恥?」

「Sibby?」

「ペペロンチーノ?」

「ペペロンチーノは理解して下さい」


澪はパスタを茹で始める。


「まぁ最初は普通にペペロンチーノを作るんですが」


麺を茹で、その間にニンニクと唐辛子を細かく刻む。具にするチョリソーもスライスする。

麺が茹で上がるまでの僅かな時間をあっち向いてホイで潰し、


「ソースを絡み易くする乳化に使うので、茹で汁を取ります。グルテンが溶け出していないと使えないので茹で上がる直前のお湯を取って下さいね」


お玉一杯分くらいを取っておき、オリーブオイルにニンニクを加えて弱火でじっくり炒める。ニンニクが狐色になったら唐辛子と茹で汁を投入、中火で白濁するまでフライパンを揺すって混ぜる。


「辛いのが好きなら早めに唐辛子を入れて下さい。モロに辛味が出るので」


あとは具と麺を炒めて絡めてペペロンチーノは完成。


「あとは仕上げですね。ここにパチパチキャンディと山椒を入れます」

「パチパチキャンディー!」

「入れ過ぎると甘くなるので気を付けて下さい。これらを和えて完成です」


フォークでくるりと巻いて一口。


「ハジけてパチパチするぅ〜。面白〜い!」

「ニンニク、唐辛子、山椒、シビれて刺激的だね。パンチがある」

「でもキャンディが甘いからちょっと舌が味のキツさから守られるんだわ」

「彼らしいやかましさがちゃんと出ていて安心しました」

「ただ、味付けが麻辣マーラーなんだけど、坦々麺にしなかったその心は?」

「夏介さんは気取ってるのでパスタ野郎です」

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