第44話 廃墟の闘技場 前編
レパルは手勢を率いてレストアールに赴くが、すでに戦いは終わっていた。
「こんなに早くアンタレス軍が敗れるなんて」、「あの戦上手といわれた名将が」口々に驚きの声を上げるストーン軍団の面々。
ロンディルが嘘の伝令を使い、頼みの綱の援軍を全く違う場所に送りこんでいたからである。
傭兵騎士団ラグナロクは、まったく別方向、リオニアとスコルの国境へと進軍していたのである。そして、そこに用意周到に待ち伏せる軍勢がいるとも知らずに。
「ついてねえ。なんのためにストーン兄ちゃんは捕まり俺たちをここへ来させたんだか」レパルも嘆いた。
「でしょ? これじゃ、わたしたちがストーンから離されただけじゃないの」ローゼも苛々していた。
ウィリウィリは激怒して団子ばかり食べているし、ノル族たちはなぜか遠吠えを上げていた。
「ロンディルの野郎、話し合うつもりなんかあるのかな。はっ、しまった。ストーン兄ちゃんが危ねえ。俺は寄るところがある。みんなは早くスカーレットブルクへ引き返せ」レパルはひとりすっと姿をくらます。
みんなとは別行動でスコルの港町ファングに戻ったレパルは、ロンディル邸に忍びこんだ。もとは前領主モンテカルロ卿が住んでいた館である。三階建ての豪邸で、門構えの内にも外にも私兵たちが固めている。忍びこむのは得意だ。鍵開けに変装に特技のオンパレードで首尾よく三階までたどり着く。狙いの部屋の前には腕自慢の警備兵が五人。抜刀するとレパルは勢いよく突入した。
「時間がない。隙を待ってりゃ、間に合わないからな!
華麗な怪盗レパル様を気取りたかったが。俺は元々、強盗稼業が本職なんだよ!!」
背中から取り出したのは、やや大型の両手剣だ、山賊時代のレパルの愛刀である。
次々と斬り倒しながら突き進むレパル。
「この広めの通路なら、おあつらえ向きだ」
両手で握った剣を回転させながら右足を右斜めに踏み込む。左足を引き寄せつつ斜め上から斬りつける。剣の動きは止めずに器用にぐるぐる回転させている。
今度は左足を左前へ踏み込むと右足を引き戻しつつ大きく斬りつける。
ジクザグに進みながら攻撃をくりかえす。豪快さと慎重さが要求される。
斜めに前進しながら斬りつけることで相手は防御しにくい角度からの攻撃となる。剣を振り回し通路を左右に横断しながら進むので、多勢の警備兵たちもレパルの脇を通り抜けて背後に回り込むことはできない。(一匹狼には背中を守ってくれる奴なんていなかったからな……)
レパルのこの技は、子供の頃に遊びながらストーンが教えてくれた海竜剣・回転斬りの応用だ。戦場となった街で、孤児だったレパルが生きのびられたのも、山賊たちの首領にまで成り上ることが出来たのも、持ち前の知恵と器用さだけでは無理だった。この剣があったからだ。「くらえ、海竜剣・見様見真似流、竜遊斬り!!」
私兵たちが剣を振り下ろすが、そこにレパルの姿はなく、あらぬ方向からレパルの刃が襲ってくる。素早い動きに翻弄される警備兵たちは、次々と倒された。
「みねうちだ。いちおう今は正義の味方の端くれってことでよ」
ロンディル卿の私室に入ると手早く目的の書類を嗅ぎ分けた。
三階の窓を少し開けると、遠くで鐘の音が響いていた。
「ちっ、おっぱじまったか。生きていてくれよ、ストーン兄ちゃん……」
祈るような気持ちでつぶやくと、館の窓を蹴り破って手近の家の屋根に飛び移る。
まるでネコ科の獣のように軽やかな身のこなしで、石造りの建物の上を走りぬける。レパルの姿は夜の闇のなかに消えて行った。
(後編に続きます)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます