第31話 テンペスト 竜騎士、飛ぶ!!

「リオンたちがどこへ行こうとしているのかは知らぬ。だが、ギルガンド軍もまた、例のを狙っている。この船から出てくるのを今か今かと待っているぞ」

 レントゥたちが船室から眺めていると、遠くに飛竜ワイバーンが滞空しているのがみえた。


飛竜騎士団ワイバーンライダーズたちが動き出しました。船を出しますか」

 副官のマリオスがたずねた。


「その必要はない。もし、あの傭兵がほんとうに竜騎士の末裔まつえいだというのなら」



 リオンとストーンはレントゥの船から降りて行った。桟橋さんばしを渡って、陸地へ急ぐ。


「でも、ほんとうに来てくれるなん思わなかったよ」


「呼んでいた……から」


「えっ? 呼んでいた? 聞こえるの?」


「さあ、よくわからない」


「そうか。じゃあ、君を呼んでいたのは僕じゃないかもしれない。付いてきてくれる……こっちだよ」

急いで橋の階段を駆け上がるリオン。



 その時、地面にいくつもの黒い影が出来て、ふたりは空を見上げた。


飛竜ワイバーンか。いったい何頭いるというのだ?」


 空を埋め尽くすように飛竜ワイバーンたちが舞っている、その数、十頭余り。飛竜ワイバーンの背にはそれぞれ板金鎧プレートアーマーまとった騎士たちが乗っていた。手には長い槍や弓矢を持っているようだ。

 飛竜騎士ワイバーンライダー、ギルガンド王国が誇る最強の戦闘集団である。


「まさか、こんなのがほんとうにいたなんて……。それで、レントゥ兄様にいさまはずっと軍艦のなかにを隠していたのか」


「リオン、残念だが、この俺でも倒せて一頭くらいだ。だが、何がなんでも俺はお前を守る!!」


「その言葉、待っていたよ。この煉瓦れんが橋、覚えている?」


「ああ、初めてあった場所だな……」


「そう、あの夜、偶然に通りかかったストーンに僕は助けられた」


「そうだったな。今、こんな話をしている場合じゃないだろ」

ストーンは抜刀してすっと構えた。


「それが偶然じゃなかったんだ……って言ったら?」


「なっ、なんだって?」


「呼んでいたんだよ、ストーンのことを。ねっ、ストーンって、泳げる?」


「あたりまえだ。このスコルの海で育ったんだからな。漁師の息子だ、剣よりも得意なくらいだぜ!」


「じゃあ、取って来てもらってもいいかな。ここって、けっこう深いよね」

そういうとリオンは橋の下の海を指さした。


「まさか、この海の底に沈めて隠していたのか」


「そういうこと。が呼んでいる……行きなさい!」


 リオンに言われて、ストーンは橋から勢いよく飛び込んだ。大きく水柱が上がる。


 空からはワイバーンが近づいてくる。


 最初の一撃、リオンは咄嗟に後ろにはね飛んで回避した。さきほどまでリオンの居た場所がまさに海の藻屑もくずになっていた。

 

「あの夜の刺客が生ぬるく感じるくらいの破壊力だね。ストーン、早く来て~」


 水面みなもに無数の波紋が広がる、何かが浮かび上がってくる。

それに呼応するかのように、今まで雲一つない晴天だった空が一瞬で夕陽の色に変わるといくつもの雷鳴が遠くで光る。

 続いて鼓膜を破りそうな轟音が来た。

 

 煉瓦の橋がこなごなに砕け散り、水中から巨大な何かが姿をあらわす。


 光り輝く夕陽の色をした竜が翼を広げて浮かび上がって来た。

小型の竜だが、小さいといっても飛竜たちの二倍の大きさはある。ストーンは、その背に乗っていた。しっかりと竜の首をつかみ、いっしょに空へと舞い上がっていく。


「えっ、剣を拾ってくるんじゃなかったの……」リオンも驚きを隠せない。


「俺も驚いているさ、だがな、これならあいつらと戦える!」


「隊長、ドラゴンです!!」飛竜騎士ワイバーンライダーズたちが慌てて叫ぶ。

「そんな報告はいらぬ、とにかく戦え!」

飛竜ワイバーンの飛行隊はいったん後退していたが、編隊を組みなおすと、三頭ずつ、三角形に並んで、順に竜のほうへ攻撃を仕掛けて来た。


「そんな攻撃、効くものか」

竜とストーンの相性はいいようで、手綱たづなさばきもなしで軽々と避けてしまう。


「今度は、こちらの番だ」竜は急上昇すると身をひるがえして急降下に転じ、飛竜ワイバーンたちの後方に移動した。


 速力をあげて後方から近づき、ストーンは剣で飛竜ワイバーンの尻尾を切り落としていった。

蜥蜴トカゲみたいにまた生えてくるんだろうが、……それまで退場だ。

海の中で昼寝でもしていな」

 

 バランスを失った飛竜ワイバーンたちが面白いほどバタバタと海の中へ落ちていった。

 

「ふーん、あんな戦い方もするんだ。いつも……殺すとか叫んでいたのと別人だね」リオンは妙に感心していた。

 

「隊長、半数以上、とされました」

「まずいな。ようやく再編された飛竜ワイバーン飛行隊だ。壊滅しては、陛下にもうしわけが立たぬ。退くぞ」

「了解!」残っていた飛竜ワイバーン飛行隊は飛び去った。



「あれが……颱風女王竜テンペスト。まさか、ふたたび覚醒するとは……」

船の艦橋から見ていたレントゥがつぶやく。

リオン達を冷たくあしらったが、もしもの時は艦砲射撃で援護するつもりであった。


「もう私の過保護な手助けは必要なさそうだな。リオン……いや殿

 レントゥは、ほっとしたような寂しそうな複雑な表情を浮かべてつぶやいた。

副官のマリオスを呼ぶと、船の臨戦態勢を解いた。


「あの青年に任せて大丈夫なのですかね」副官マリオスが問いかけた。


「貴様も見ていただろう。やつは本物の竜騎士ドラグーンだ。私の出る幕はもうない」


「大丈夫とお聞きしたのは、貴方様のお気持ちのほうですよ」


「なんのことだ。私はただの保護者だ、気にすることはない、マリオス。船を出せ、リオニアへ帰還する」

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