第32話 さよならリオン

  煉瓦橋は壊れて渡れなくなってしまった。

橋というよりも、すでに廃墟である。

「ストーン、君がただの殺人マシンじゃなくなったのはよかった。でも、こんなに壊しちゃって」


「俺ひとりで壊したわけじゃないが……。ドラゴンの制御が思いのほか難しかった。まっ、これからは気を付けるさ」

そのドラゴンはすでに騎竜剣のなかに収納されていた。


「しかたないね。とにかく、守ってくれたことには感謝しているよ」


「リオン、この剣は……颱風騎竜剣テンペストドラグーンじゃないか」

ストーンは、剣をリオンに手渡した。


「その名前を知っているなんて。あの日、剣を届けてくれたという少年が、ストーンだっんだね」


「俺の父さんの形見と思っていた剣。そして、俺の大切な……」


「大切な何?」


「いや、なんでもない」


「ふーん、まあ、いいけど。この剣の中のドラゴン。風の竜の女王テンペスト、まだ幼い竜の女の子。それって、まさか……あなたの恋人なの?」


「……」

ストーンは、肯定も否定もしない。


「レントゥ兄様が前にそんなことを話していたような。まっ、いいけど。僕も……ストーン、君のことが好きになっちゃった」


「俺なんかやめておけ!!」


「どうして? 僕が男の子だから? 」


「ふん、リオン。お前が女の子だということくらい気が付いている。生き残って来た傭兵の目は節穴じゃない」


「いつからわかっていたの?」


「出会った時から、気づいていたが、面倒なので黙っていた」


「えっ、そんなっ! じゃあ、話が早いね。僕の……じゃなく、の恋人になってもらえるかしら?」


「ことわる!!」


「ええっ、どうして? わたし、男装しているけれど、ちゃんとドレスを着て髪も整えたら、けっこう美少女のほうだと思うし。うん、自分でいうのもなんだけれど」


「ああ、可愛いと思う」


「じゃあ、どうして。やっぱり、あの竜の女の子が」


「さあな。それより、いちおう任務を続行する。行く場所があるんだろ、急ごう」


「ふーん、しかたないか。恋人はあきらめるから、じゃあ、騎士になってよ」


「俺はあんたの騎士だが……」


「そうじゃなくて、ほんとうのさ」

そういうとリオンは騎竜剣を抜くとそれでストーンの肩を強く叩いた。


「痛いなっ……なにするんだ」


「我が名は、サンアラウンドプレイス帝国・皇女レオナ。ストーンよ、そなたを帝国の正式な騎士として叙任する。その証として、この剣を授ける」


「なんだって? 古代帝国の末裔、獅子の皇女とよばれているあのレオナ様だと? 」


「どう、驚いたでしょ。男装の女の子だって見抜いたことはめてあげる。でも、わたしが古代帝国の忘れ形見の皇女だとは見抜けなかったでしょ?」

 そう言いながら、頭に手をやって小さなピンを数本とりのぞくと髪の毛がはずれた。いや、かつらを外したのだ。いつもの茶色い短めの髪型ではなく、そこに白銀色をした長い髪がばさりとあらわれた。


「本当に皇女なのか……。このじゃじゃ馬。言われても見抜けないぞ」



 リオンは水晶球の付いた小さな杖を手にしていた布鞄から取り出した。

「竜の王笏よ。これでわかったでしょ。わたしが本物の皇女だってね。だから、ストーン。あなたも本物の帝国騎士なの」


 その杖は見ただけでなにかとてつもない力を秘めていることを感じさせるにふさわしい物であった。

「竜の王笏の話は俺でも知っている。たしか宝珠とかいう丸いものも持っていたと聞くが?」


「思ったよりも詳しいわね。でも、竜の宝珠はもうどこにも存在しない。その宝珠とよばれていたものが姿を変えて作り出した物、それが四本の騎竜剣。そのひとつを与えるのだから、ちゃんと騎士としての自覚をもちなさい、ストーン!」


「騎士のことは実感がないが、この剣はありがたい」


「はいはい。竜の女の子との想い出よりも、生身の皇女様のほうがよくなったら、また会いに来なさい。わたしの恋人になれば、誰もが憧れる帝国の後継者になれるかもしれないのに、馬鹿なやつ」

リオンはきびすを返して立ち去ろうとする。


「どこへ行くんだ。公都へ行かないのか?」


「気が変わった。レントゥに迎いに来させるから、もう一回、桟橋へ送ってもらえる? どこかの馬鹿が壊したから、しばらくあの橋を渡れないね」


「おいっ? 公都へ行って、戦争を止めるとか言ってなかったか」


「ふふっ、それはもうわたしの仕事じゃないわ。わたしを桟橋まで送ったら、さっさと公都・スカーレットブルクへ行って、この戦争を終わらせて来なさい。これは、『帝国』としての命令です!」

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