第27話 もうひとつの刺客たち
酒場で休んだ二人はまた歩き出した。
とくに争いもない平穏な旅であった。
目的の街が見えてきた。
「この林を抜けるとすぐだ」ストーンが指さす。その先に公都のシンボルでもある紅の塔がみえた。巨大な
馬の駆けてくる音が聞こえた。
二人の前に馬に乗った者たちが走り寄って来る。その数、十騎余り。黒尽くめの一団が二人の行く手を阻む。
「例のものを渡してもらおう。見たところ、手回りにないようだが、どこかに隠したのなら、在りかを教えてほしい」
「レントゥの手のものか。嫌だといったら、どうするの?」
リオンが逆らう。
黒い一団は、外套をばさりと翻して一斉に長い棒状の鎌を向けてくる。その様相は、まるで死神の群れのようだ。あの夜、橋の上でリオンを襲った賊たちとは雰囲気がちがう、何者なのだろうか。
おそらく、あのとき近くで様子を窺っていたもう一組の賊たちだろう。ギルガンドの刺客たちではない方、つまり、リオニアのやつらだろう。
「おいっ、リオン。そのブツってなんだ?」
「関係ないでしょ。例のものが何であっても。あなたの任務はわたしを護ること」
「そうだったな。俺は敵を倒すだけだ」
傭兵剣士も剣を抜きはなった。
先手必勝とばかりに、手近の男に斬りかかるストーン。
しかし、彼の剣を直前で見切ってふわりとかわす黒マントの男。
「むっ、早い。こいつら?」慌てるストーン。
「只者じゃないわ。彼らも傭兵、リオニアきっての戦争のプロ集団、レントゥ騎士団よ」
死神集団の一人がマスクを取った。黒髪の伊達男だ。
「私は、
マイトは、外套の中から、機械仕掛けの弓矢を放つ。
いつどこから飛んでくるのかわからない。
無数に打ち出された弓矢が刺さってストーンは倒れた。
そのうちの一本は心臓に命中したようだ。
「くっ、割と卑怯な武器だな。そんなもので俺が倒せるとでも」
すぐに起き上がるストーン。刺さった矢をへし折った。
傭兵剣士の心臓を打ち抜いたはずの矢を、彼は剣の刃で受け止めていたのだ。
奇跡ではない。ストーンの動体視力と反射神経なら不可能ではなかった。
ストーンは、あっけにとられているマイトに駆け寄ると、
疾風のような動きで剣を右へ左へと動かした。
マイトはふっ飛んで地面に叩きつけられる。
起き上がろうとするが、数か所に深い傷を負っているようで動きが鈍い。
「下がれ、マイト!」
新手がやってきた。
やはり、黒尽くめである。一行のリーダーのようだ。
「レントゥ騎士団長!」
「貴様らは下がっていろ。私が相手する」
「レントゥ……だと」
ストーンは三年前に港で騎竜剣を預けた青年を思い出していた。あの男に間違いはない。しかし、あの頃の印象とは大違いだ。騎士として憧れられるような存在だと思っていたあのレントゥとは。これでは、暗黒の騎士といった雰囲気ではないか。
「ストーンとやら、貴様に怨みはないが、消えてもらう」
( このレントゥという男、型がみえない )
剣を構えながら焦るストーン。
レントゥの武器は長刀だ。ストーンが使っている幅広剣も長いがレントゥの剣のほうがさらに長い。間合いが広い。ストーンはいっきに距離をつめようと前進しながら突きを繰り出した。
しかし、わずかの動きで攻撃の軸線を外したレントゥに、交わしざまに右足を斬られた。ストーンは防具を着けていない。防具らしきものは左右の手首から上腕の覆う革の籠手だけだ。幸い足の傷は致命的ではないが、かなりしびれている、足さばきに支障がでるだろう。
「よい太刀筋をしているな。だが、しょせん、私には及ばん」
「おまえを斬る……。海竜剣・三段斬り」
ストーンは一瞬のうちに剣の流れを三段階にスライドさせて斬りこんだ。これなら、相手は剣がどの方向に来るのか読むことは出来ない……はずであった。
レントゥは構えもしていなかったのに、その剣が先にストーンをとらえていた。
凄まじい破壊力にストーンの体は宙を舞って後方に飛ばされていった。
「居合斬り……か。おかしい、俺のほうが早かったはずだ」
ストーンがそうつぶやいたが、もう体は動かない。かなりのダメージを負っていた。
「レントゥ。やめて、とどめは刺さないで」リオンが叫んだ。
レントゥは剣を収めた。
「よかろう、そいつの命は取らない。リオン、そのかわりに私のもとへ戻ってくれ」
ストーンは敗北した。
自分が一騎打ちで負けるなどとは信じられなかった。リオンは、連れ去られていった。
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