第26話 傭兵剣士の休息
リオンとストーンは港町ファングを出て公都スカーレットブルクへと向った。
「ちょっと休みたいなぁ。足が痛くて」
「すまない、気が付かなかった。もう少し先に宿がある」
「うん、頑張るよ」
街道沿いに酒場がいくつかあった。二人は、そのうちの一軒に入っていった。
ストーンが酒場の主人に何かを話して、金貨を一枚渡した。そして、リオンを連れて店の奥にある細い階段を上った。
「ここは宿屋ではないが、少人数なら寝泊りできる。雑魚寝になるが野宿よりはいいだろう」
「うん、ありがと。狭い部屋だね」
「ここは広いほうだ、五人くらい寝られる。貴族の坊ちゃんに言っても無駄か」
「いいよ、ここで。で、ストーンもいっしょにこの部屋で寝るの?」
「当たり前だろ。二部屋も必要ないし、第一、護衛をするなら近くにいるほうがいい」
「ちょっと、気まずいなぁ。まっ、しかたがないかな」
リオンは少し不満そうであったが、床に腰をおろして一息つきながら、床に手を当てて感触を調べていた。ベッドも無いし、木材を敷き詰めた床に薄い絨毯が敷かれているだけだ。「眠れそうにないなぁ……」
「リオン。寝る前になにか食べておくか」
「そうだね、僕もお腹が空いちゃって」
「降りるぞ。酒場だからたいした食い物はないが」
「食べられたら何だっていいよ」
一階はけっこう広い、六人まで座ることが出来るテーブル席が八卓。窓際には四人ずつのテーブルが五卓、そして、長いカウンター席があり十人以上は座ることが出来る。
ストーンたちはカウンターの先客たちの合間に紛れ込んだ。すでに店は混んでいた。
「ここはけっこう人気店だ。リオンはもう十五歳にはなっているのか?何歳だっけ」
「何歳だっていいだろ。僕はお酒は飲まないし。僕は蜂蜜のソーダ割りにしよう」
「そうか。じゃあ、俺は雷酒を頼もう」
ストーンは、一杯目を二口ほどで飲み干した。次々とお代わりを頼んでいる。
「そんなに飲んでだいじょうぶなの」
「護衛するのに問題はない。俺は酔っていても戦える。支払いのほうが心許ない」
「それならいいよ、僕が払うから」
「飲んでいるほうが調子がいいくらいだ」
「ふーん、それは嘘だね」
「……」
「ストーン、君はなにかを恐れている?」
「まさか、この俺が。怖い者なんかない。すべてこの剣で叩き斬るだけだ」
「その半透明の黒い仮面。あまり趣味がよくないけれど、それは自分の心の中を覗かれたくないなんて思っているからじゃないの?」
「そんなことはない。俺にはもう心なんてない。戦場で捨てて来た。それよりも酔っぱらう前に聞いておかないとな」
「なっ、なにを……??」
「あの橋の上で襲撃してきた刺客たちのことだ。おそらくギルガンド王国の人間だと思うが、そのとき、べつの集団が近くにいたのを見た。小声で話していたのが聞こえたが、リオニア語でリオンの名を言っていた。知っていたか?」
「つまり、別のふたつの組織が僕を狙っているってこと? さあ、気づかなかったよ」
「そうか、ならばいい。料理が出来たようだ。さあ、飲むぞ」
リオンはなにかの魚の身を
「それにしても、これ、おいしいね。港が近いから新鮮なのかな」
「そうだな。この酒場の主人は元々は漁師をしていたらしい」
「いつもはパンしか食べないから。コメはめずらしいな」
「このスコルの国でも、たいていはパンだな」
「あの端の人が食べているパンは何かなぁ。香ばしい香りがするね」
「
「なるほど。リオニアでは発音が違うから無理だね。戦争の
「そのお酒もリオニアではみないね。雷酒って名前なんだ……どんな味がするんだろう」
リオンはストーンが頼んだお代わりの酒をなめてみて、すぐに吐き出した。
「おいっ、だいじょうぶか」
「ひぃっっっ、舌が焼ける……目がまわりそう」
美味しかったので楽しい気分になったリオンは結局、ぐっすりと眠ったようだ。
ストーンはそれよりも先にドラゴンでも吠えているのかと思うようないびきを立てて眠りこけていた。傭兵剣士って者はな、刀を抱いて眠るんだ。寝ていても蚊や蝿が近づいただけで一瞬で目が覚める……とか、そういうふうにどこかで聞いたことがあったが、ほんとうだろうか、リオンは確かめてみたかったけれどやめておいた。
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