第17話 風のドラグーン

 ストーンも倒れていたが、横たわるピティのほうへとっていく。


「やつは倒す。そして帰ろう、いつもの、風のすみかに」

ストーンは、ピティを抱きおこし、語りかけた。

もう立ち上がる力も残ってないと本人がいちばんわかっていただろう。

それでも終われない、ストーンはまだあきらめてはいない。

もう勝ち目などないはずなのに。

(こちらから動けない、だが、ブロンクスはとどめを刺しに近づいてくる。その瞬間になにかできないか)


 考えを巡らせていると、ピティがすこし動いた。


「ピッ、ピティ!!」

「こ……これを……」拾いあげた剣をストーンに手渡す。

受け取るストーンの手とピティの手が剣の持ち手のところでしっかりと

握られた。

「ピティちゃん……剣を拾ってくれていたんだね」


「さ、よう、なら、ストーン、く、ん。わたしの……えいゆ、う……」

ピティは声をふりしぼりながら言葉をつむぎだすと、

つづけて何か呪文のような言葉をつぶやいた。それはストーンの知っている少女の可愛らしい声ではなく、威厳いげんにみちた響きをしていた。

「剣よ……わたしのたましいみなさい。風の竜の女王、テンペストの名において命ずる……騎竜剣ドラグーン、起動……」

ピティの姿はしだいにけるようにうすくなると剣の中にとけこむようにして消えていった。


「竜だ……幻のような竜を見た」ストーンはつぶやく。

「ピティが竜の姿になった? 剣のなかに消えた? この剣のなかに」

その刹那せつな

そよ風ひとつなかったこの空間に、風が立ちはじめた。

ストーンの持つ剣をとりかこむようにして風がざわめきだす。


「なんだ、なにが起きようとしているんだ」

ストーンは手の中で暴れだす大剣を必死に握りしめた。剣からなにかが伝わってくる、力と一言ひとことでいえるものではない、生命力というのか、もう動く力さえ残っていないと思われたストーンの体に。

気のせいではなかった。

ブロンクスに付けられた切り傷がふさがった。それだけではない、

伯爵に刺された脇腹の深い傷がみるみると癒えていくのだ。

人間の回復力ではない、魔導師の魔法や聖職者の祈りによるものとも違う。内面から癒えていくこの力は、まさしく怪物モンスターのもつ生命力、これは竜の力だろうか。



「そんなこけおどしが通じると思うな」

ブロンクスが斬りかかってきた。


 風を帯びたその剣でストーンは受けた。

ふたつの剣がぶつかり合うと、ブロンクスの剣が粉々に砕け散った。


ストーンの手の中で剣がきらめいていた。不思議な光であった。

「ハハハッ。ただのほら話だって思っていたよ……父さんのこの剣が……騎竜剣ドラグーンだったなんてな!」


「なぜだ、私の剣が砕けた? 不覚にも替え玉ダミーをつかまされた。こいつを仕組んだ奴はよほど貴様にその剣を持たせたかったようだな!」

ブロンクスの顔に緊張がはしった。もう、魔族としての優位性はない。

ドラゴンを封じ込めて鍛えられたという特別な剣ドラグーンは、ただ威力があるだけではなく魔族や不死族にも強い効果がある。


「すきな女の子ひとりも守れない、中途半端なこの俺が使いこなすにはもったいないが。てめえを斬るにはちょうどいいぜ!」


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