第16話 炎と風
ストーンは底知れぬ不安に顔をゆがめた。
目の前にいる少年はモンスーンであったが、モンスーンではない気がした。
「モンスーン……だよな?」
「僕がここにいてよかったさ、三度目のなんとやらだ。ほらっ、
あのトランクに入っていたものだよ。見たまえ、この剣のかがやきを」
モンスーンは黒革の包から出した剣を抜いた。黄金の装飾がまぶしい高価そうな
「あれが、帝国の秘宝なのか」
「これが噂に名高い
どれ、切れ味をためしてみようか、君の首で」
「モンスーン、違うな。てめっ、いったい何者だ?」
「僕かい? 君の友人のモンスーンじゃないかと言ってほしかったか。
僕は……いや私はギルガンド王との盟約により召喚された
この次元において実体化するために、このモースーンという男を
「なんだと。つまり、モンスーンの体を横取りしたってわけか!」
「モンスーンが任務に失敗して戻ってきたとき、彼の心はすでに壊れていた。この体に入りこむのに好都合だった」
ブロンクスは、ずるそうな目つきで
「やめろ、モンスーン。正気にもどれ!」
血の
「そうだな、ストーン。戦いはやめよう。
君はもう十分に戦ったよ。剣を収めてくれるかな?
君がそうしてくれたら僕もこの剣をおさめる」
ブロンクスがモンスーンの口調で語りかける。
「モンスーン、記憶が残っているのか。俺も、もう戦いたくない」
ストーンは剣の構えをくずした。
「ストーンくん、
「えっ?」
「それは、モンスーンくんなんかじゃない。もう、モンスーンくんではないの!」
ピティは声をふりしぼって叫んだ。
「でも、あいつはモンスーンじゃないのか?」
ストーンは動けない。
(お魚、おいしかったよ……)
誰かが
その声は、目の前のモンスーンの姿をした敵の口から発せられた言葉ではなく、ストーンの心の中に直接、響いてきた。
その時、ストーンは思い出した。ともに剣術を学んだ友であったはずのモンスーンが最後に残した言葉を。
(ひとつだけ、言っておく。君の甘さでは、ケンカには勝てても人生においては生き残ってはいけない。この世界は、無情さ。
もし、もう一度、戦うことがあれば、その時は、僕に勝てない、そして、その時は君の最期となる。覚えておくとよいよ。ナイフ投げだって? ヒンッ、こんな軽業師みたいなこけおどしは二度とは通じないさ)
もしかすると、モンスーンはこうなることを予感していたのだろうか。
あれは、負け惜しみの言葉ではない。友への忠告だったのではないのか。
「魚、おいしかったよな? モンスーン? もう居ないんだな。せめて、その
モンスーンなんかじゃない、ブロンクスとか言ったよな、お前を斬る!」
投げナイフを握り締めるとありったけの力をふりしぼって放った。
最後の投げナイフが宙を舞った。
ブロンクスは余裕で剣を動かすとナイフを打ち払った。その時、
一陣の烈風がブロンクスの頭上高くから舞い降りてきたかのように、渾身の力で剣を叩きこむストーン。ナイフに気をとられていたブロンクス。
「やったか……これでモンスーンの
ブロンクスはふらふらと
ふつうの人間なら即死を免れない損傷ではあるが、この魔族にとっては致命傷ではない。
「抜かった、フェイントだと。だが、こんな傷など」
ブロンクスの受けた傷は、あっという間に元通りになってしまう。
「なんだと?」ストーンは目をうたがった。
「私たち魔族に、そんな刀剣が通用するとでも思うのか。ミスリル銀の剣ならともかく、そんな鉄か鋼のような
ブロンクスの剣が襲いかかる、応戦するストーンの剣を上にはねのけると
返した剣を低い位置から横に
「この技は海竜剣。そうか、モンスーンが習得していた技まであいつは
使いこなせるというのか」
身を起こそうともがくストーンの背後にまわりこむブロンクス。
容赦のないブロンクスの
「これで終わりだな、ストーンとやら」
完全にブロンクスのペースだ、もう
その時だった。
ピティがストーンをかばって飛び込んできた、
悲鳴をあげてピティはくずれ落ち、動かなくなった。
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