第15話 約束
どれだけ昔の建物なのだろうか。カビのにおいに包まれ、歩くたびにほこりが舞うような古びた廊下を走りぬけ、最上階につづく階段をのぼった。
城の上の部分は塔になっていて、
外はすこし闇が白くなりはじめる、夜明けが近づいているのだ。
下を見下ろすと城内は意外と広い。
ストーンには景色をながめ思いでにひたっている余裕などなかった。
屋内には、いくつかの部屋があった。
「どこだ……どこにいるんだよ。うっ、なにか聞こえる……声か? 泣いてる声?」
奥の扉から少女の泣く声が、かすかに聞こえてくる。
「ピティの声だ。この部屋か」
「ストーンくん!」
ピティの瞳にぱっと光りがもどった。
ストーンが
「ピティちゃん。なんてきれいなんだ」
ストーンは、とても愛おしそうにゆっくりと手を差しのべた。「さあ、早くここから脱出しよう!」
「来てくれたんだぁ、ストーンくん。ほんとうに……。
わたし、信じていた。ストーンくんは生きているって。
そして、きっと助けに来てくれるって、眠るといつも夢でみていたの」
ピティの目から涙があふれ出していた。ストーンは指でやさしくそれをぬぐってやった。「ピティちゃん……」
「夢じゃないよね?」
ピティはストーンの体に顔をすりよせて、幻ではなく実体だと確かめているようだった。
「ああ、俺は生きている、君を助けに来た。さあ、急ごう!」
手をとりあって部屋を出て行こうとする二人の前に何者かが立ちふさがった。
「甘いぞ、小僧。わしの奪ってきた宝物、そう簡単に取り返せると思うな、その美しい娘は渡さぬ」
整った顔つきだが、
「ピティは、俺が連れてかえる。この剣にかけて」
背中に
「あの時の小僧か、まさか生きていたとは。せっかく
伯爵も自慢のレイピア(高貴な細い剣)を抜く。
「危ないから離れているんだよ、ピティ」
少女を後ろに逃がして、ストーンは勢いよく伯爵に斬りこんでいく。
「かかったな?こぞう」
にやりと薄笑いを浮かべて伯爵は狙いを定めると、ストーンの肩をめがけて剣先を突きだした。まだ傷も
真っ赤な血しぶきが飛び散り、少年の手から大剣がふっとぶ。伯爵の得意技だ。
相手の攻撃を利用する伯爵のカウンターは、勢いをつけて攻撃すればするほど倍返しとなって襲いかかってくるのだ。
父の形見の剣は床に転がったまま、血みどろの右手では上手くつかめない。
「ええい!!」
ストーンは、体ごとぶつけるように空中に飛び上がりながら、身を
「ピティちゃん。俺が必ず連れてかえるから」
ストーンは、少女の肩を強く抱きしめ、つぶやく。大剣は床に転がったまま。
とっておきのナイフはあと一本。しかし、投げナイフであのカウンターを封じられるとは思えない。
伯爵がじりじりと近寄ってくる。先ほどのストーンの
「観念できたか! これでお
伯爵の剣が振りあがった。
「ストーン君、覚えている?いつか英雄になるんだ……って、子供の頃、私に約束してくれたこと。見たいの……英雄になったあなたの姿を」ピティは言った。
その
「よく見ていてくれ。これが、その約束の答えだ」
そう叫ぶと、少年は伯爵に突撃して行く。
伯爵にとってはおもうつぼだ。レイピアの剣先がストーンの脇腹に深々と突き刺さった。胴体をまもる革鎧も無惨に破れていた。
だがストーンは、ひるむことなく逆にふと笑った。
「これなら得意のカウンターは出せないだろ、伯爵さんよ!」
「まさか、わざとか?」しかし、深々と刺さっている伯爵の剣は自由にならない。
剣を抜いて伯爵は
いうまでもなく即死であった、伯爵は絶叫すら上げることなくこときれたのだ。
「やったよ、ピティちゃん」ストーンはおもわずピティを抱きよせた。
「ストーン君……ストーン君」ピティも
「ほんとに無事でよかった」ストーンはピティの髪をなでた。
「ストーン君も……」
「あとは、ここから脱出するだけだ。下に馬がいたのを見た、あれを使えるかもしれない。行こう」ストーンはピティを抱きよせた。
ふたりがこの部屋から出ようとした瞬間、出口の向こう側に人影がみえた。
「お楽しみ中にすまないね……まさか、このまま帰れるとでも思っているのかい、君たちは!」
聞き覚えのある声が響いた。
「おまえは???」
「ひさしぶりですね、ストーン。ピティさんも」
「生きていたのか?無事だったんだな、モンスーン」
ストーンはニコリと笑った。
「人がよすぎやしませんか、あいかわらずだな」不敵に笑うモンスーン。
手には黒い革袋に入った何かを持っていた。
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