第19話 地の果て青森でたくさんの優しさに出会った

愛車のXLR250BAJAはノントラブルでトコトコと北上していく。


天気もまずまずで、週に一度くらいは雨にやられるが、

真夏なので暑い、という以外は特に問題なく順調に野宿旅は進行していた。


個人的に第3の目標かつ、最大の目標である北海道野宿一周に近づきつつある。


まずは本州脱出であるが、青森から北海道へ、

バイクでのアプローチ方法はフェリーに限られる。


目的に合致した方法は、大きく3つあって、


1.青森-函館(青函連絡船)

2.青森県大間-函館

3. 青森県三厩村-北海道福島町(2022年現在は既に運行なし)

である。


2は陸奥半島、3は津軽半島からの北海道最短アプローチとなるが、下道限定の野宿旅をポリシーとしといるので、往路はフェリー乗船時間が最も短い陸奥半島側、大間発を選択することにした。


本州最北のこの県は、九州出身者にとってほぼ異国である。

個人的にはこの異邦人感が旅の醍醐味の1つであろうと思っている。

誰も知り合いがいないところで、

1人淡々と「北へ向かう旅」そのものを目的として走っている。


どうもこの感覚がウチの家族には分からないようで


「せっかく日本各地に行くのに、そこの名産品を買ったり、観光しないなんてもったいない、なぜか?」


とよく聞かれる。


ただ北に向かい野宿をしながら旅をする、それが目的なのだから「観光」などにうつつを抜かしている暇はないのだ。

その「観光地」が「走り」の目的地だったりする場合は別ではあるが。


青森に入り十和田湖を経由して、野辺地で野宿することにした。

野辺地…なんと地の果て感のある地名だろう。

その名を付けた人に拍手を送りたい。


むつ湾が見え始めてから、頭の中では


「あ~ぁ~♪津軽海峡~、冬げ~しき~♬」


がヘビロテしている。


物悲しい冬の歌であるが、今は夏。

天のため泳げるほどの気温ではないが、物悲しさは皆無である。


いつも通り16時には野宿場所の選定に入るが、

良い感じに「地の果て感」のある(寂れたともいう)公園を見つけた。


今夜の宿はここにしよう。

手際よくテントを設営し荷物を放り込むと、

軽くなったバイクで近所のスーパーに買い物に出かける。


さっき前を通ったこれまた地の果て感のあるスーパー…というか

雑貨屋に行こうと目星は付けておいた。


数分も経たずに到着し、思いのほか広い店内に入る。

地元のスーパーに行くと九州では見ることのできない

サカナや野菜が売っていたりするのが面白い。


これも個人的な旅の楽しみになっている。


どれどれ…どうしても不足しやすい野菜の小売パックなどあるのは助かる。

キャベツの千切りの小売はあまりないのだ、それも2人分までとなると見つからない。

運良くここにはあった。


あと煮物は出来ないので食材はフライパンでの焼くだけ調理だから冷凍食品も基本ダメ。

今日はレトルトミートボールにした。

忘れてはならないのは魚肉ソーセージだ。

常温保存で腐らないこいつは非常に重宝する。

そろそろ切れるので3本パックを買うことにする。


あとはビール2本。

コメももうなくなるので2kg袋を買う。

飯盒にちょうど入るジャストサイズだ。


1つしかないレジに無骨なオフロードブーツをガコンガコン言わせながら並ぶ。

2人の地元のオバちゃんが並び、レジのオバちゃんと話している。

声は聞こえる…が…全く理解できない…聞き取れないのだ。


同じ日本語とは思えない。


オバA「@_c_&b/_@@@_g&&pud、ハハハっ!」

オバB「__/##@/&!wdpamg@/###、ふふふ」


笑っていることは分かるが、もはや外国、

サッパリわからん、まさにオレ、異邦人!


次の精算は俺の番!


ドキドキ感がハンパない。レジのオバちゃんと意思疎通はできるのか?


「お待たせしました、xxx円になります。」


あれ?


に、日本語である…


そ、そうか、真っ赤なラインディングジャケットを着て

オフロードブーツをガコンガコン言わせてレジに並ぶ異邦人には、

現地語ではダメと判断されたのか。


バイリンガルおばちゃんスゲえ!優しい!


とまあ、10分後には当たり前じゃんと思う話に感動して店を出た。


テントに戻ってラジオで18時のニュースを聴きながらビールを飲んでいると、

散歩のおじさんらしき人が近づいてきた。

齢50くらいだろうか。柴犬を連れている。


ここでも異邦人のオレには多少イントネーションの異なる日本語(笑)

を使って話しかけてくれた。


オジさん「どこからきたんだい?楽しそうだね」

僕「熊本から来ました。あちこちで野宿しながら北海道を目指しています」


オ「若い頃そんなことをしてみたいと思ったことはあったけどやらずじまいだったな。どうだいどんなことが楽しいんだい?」

僕「基本ひとり旅なので、どこに行っても話しかけやすく、話しかけられやすいことでしょうか。キャンプ場では良く自分から自分から話しかけて友達になって、多分もう2度と会わない人と別れていく、こんなこともう出来ないと思います。」


オ「なるほどなぁ、その話もっと聞きたいなぁ、ウチの庭にテント張って寝ないかい?」

僕「えっ?お、面白そうなお話なのですが、今夜はもうこんな風にビールも飲んでしまったし、移動できないんです」


オ「おお、それなら明日ウチに泊まるというのは?」


と、非常に有難い申し出を受けたのだが、もう頭は完全に北海道で、

あと1日本州に留まることは今の僕にはできなかった。


僕「…お気持ちは嬉しいのですが、目的地北海道が目の前で、

気持ちがはやっていまして、頭が完全に北海道を向いています。

今回はご遠慮させてください…」


もう1人の自由旅の師である、

カヌーイスト野田知佑さんなら二つ返事で泊まりに行きそうなシチュエーションだ。


こういうことは旅の間に何度かあったが、テントを張り終えてからは、流石に対処しづらい。もうここが今夜の僕の家なのだ。


オ「そうか残念だ、元気で事故がないように祈っているよ」


お礼を言ってお別れした。青森の人への良い印象が増す。


伊豆からこっち、

実はこっそりカメが吸っていたものと同じ「キャメル」を持っている。

基本吸いたいと思わないので全く減らないが、

晴れてきた夜空を見上げていたら吸う気になった。




ライターはストーブに点火するためのものを持っているが、ライターは使わない。


ランタンを引き寄せてホヤの脇にタバコの先を押し付けて点火する。

なんとなく焚き火の燃えさしの様な「雰囲気」があると思うのだ。


プフゥー…いい夜だ。

ナイターを聞きつつ、ランタンの脇で愛用のコクヨB5サイズA罫のノートを開く、

僕の字は大きくてB罫には収まらないのだ。そしていつもの日記を書くことにした。


書き出しは…


「今日は地の果て青森でたくさんの優しさに出会った…」

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