第18話 石廊崎から修善寺、そして再出発

西伊豆でしこたま遊んだ我々は翌日に移動を開始した。

夏休みの大学生は金はないが時間は潤沢にあるのだ。

ゆるゆると海岸沿いを走る。


石廊崎にたどり着きユリを探すが、バイク旅で1日先に出発したユリがいるわけもない。

肩を落とすヤマ。


「だから言ったろ、いるわけないじゃん!」


「やっぱり楽しかったからご一緒したいと思って待ってたんです、

的な展開あってもいいんじゃねぇかと思ってさ。」


お花畑なアタマだ。

そんなことあるわけないだろ!


石廊崎では観光用のヘリコプター遊覧があり30分ほど遊覧できるらしい。

ヘリコプターは乗ったことがないので大いに興味を惹かれたが、

1人2万円!は無理である。

重ねて言うが大学生には暇しかないのだ、金はない。


気持ちとカネの双方で落ち、トボトボと石廊崎を後にした。

その後、だんだん天気が悪くなってきた。

真夏に直射日光下で自転車漕いでる2人と、

フル装備でヘルメットかぶったバイク乗りで毎日汗だくである。


ここに雨が降ってきた。そうなると非常に不快な感じになる。

ザッツ日本の梅雨な感じ、

想像するに不快であるのはお分かりいただけると思う。


「なぁ、今日はどっか泊まろうぜ、キチンとした風呂に入りたいし」

「予算は?」

「1人3000円?くらい?」


まあそうなる。

電話ボックスに入り、南伊豆の旅館で素泊まりさせてくれるところを探す。


「腹減ったな~」


お前らも働けよ!と怒鳴るが、自転車の2人は素知らぬふりである。

5軒目くらいで運良く見つかった。

今夜は風呂付き布団付きの豪華な夜だ。


雨の中、ヨレヨレになりながら宿に到着し、

風呂に入って乾いた服に着替えたら、やっと人心地がつく。


「だから腹減ったって!」


本当は飲みに行きたいところだが、泊まる事にしたので、夕飯の予算はない。

しかたなく緊急時の袋ラーメンを3つ拠出する。

その代わり自転車組にビールを買い出しにいかせた。


1人用のキャンプ道具鍋が小さくてラーメンが1袋ずつしか出来ないのを

ブーたれる自転車組がうるさい。

しかし疲れていたのか、みなラーメン食べてビール1本飲んだら、

布団に入った瞬間に即落ちしてしまった…。


明けて翌朝はちょっと曇っていたが、自転車を漕ぐにはいい天気だ。

宿の朝飯はとってないので、早々に準備して出発する。

地元のスーパーの朝市に出ているお惣菜を朝飯にすることにした。


朝からガッツリ鯵のフライとかも食える。

むしろ活力源である。

オニギリと合わせて食べて元気よく1日をスタートさせる。



この日は海沿いを北上し、適当に行けるところまで、という計画だ。

淡々と走って修善寺まで来た。


今夜は天気が怪しそうだ。

西の空がどんよりと曇っている。

一般論ではあるが、北半球では偏西風に乗って天気は西から変わる。

綺麗な夕焼けが見える日は翌日晴れる、という伝聞、

つまり夕日が綺麗に見えるということは、西の空に雲がないということで、

好天になる可能性が高いということを指している。


この日は如何にも天気が崩れそうな西の空だった。

出来ればいつもの流儀に従って大きな道の橋の下で濡れない場所を確保したかったが…


修善寺は中途半端に都会であり、かつ大きな橋がなくて広い橋の下、は確保出来ない。


野宿地を物色しつつも適当な場所がなく、日が暮れて来た。

結局時間に負け、狭い川の河原が本日の野宿地となったが…。


「川ってさ、狭いと急に増水とかするんだよな」


知った風で急にカメがそんな話をしだす。


「物理的にそうだけど、だから何?」


「いや、これでさ、急に上流で大雨とか降ってオレら流されるとか無い?」


「いや、あるなしで言えば可能性はある、でもそんなの気にする人だっけ?」


「えーと、、はい、そういう人です…」


めんどくせえ奴だな、と思ったら、夕飯の買い出しの時に、

いつもよりビールを一本多めに買ってきて、

なにやらブツブツ言いながら目をつぶって川に流している…。


かなり本格的に気にしているようだ。


「まあそんな一気には増水しないだろうし、

水が増えてきたらソッコーで河原から道まで上がれば間に合うだろう」


と言うと


「そういう不信心な奴が最初に死ぬ!

ここに降らなくても上流で降ったら終わりだバカ野郎!」


と言われた。


うるせえなバカヤロウ、そんなに怖いんなら河原じゃなくて

上の道端で寝ればいいのだ。


しかし案の定、雨はギリギリで持ちこたえ、

どんよりした天気だが無事に朝を迎えた。


その翌日の宿場はキレイな水が使えるという理由で、小学校の校庭であった。


翌朝、なんだかテントの周りがワイワイいっている...

人の気配がしてテントの外に出るとラジオ体操の子供達が集まっており、

遠巻きにクスクス笑われていた。


我々3人は何事もなかったかのように校庭の蛇口が回る水道をくるりと回し、

ジャバジャバと顔を洗い、元気にラジオ体操第2までキッチリ参加した。


が、スタンプはもらえなかった…。残念だ。


こうしてラジオ体操の日に自転車伊豆一周の野宿旅は終わり、ヤマカメはそれぞれの家に帰った。


そして彼らとは袂を分かち、

再び1人、バイクで北上を始めたのだった。

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