第4話 佐々木の実力 彼がんばります

 ボツキャラの発生地は都内の小さな公園だった。


「でも、ボツキャラいませんね?」


公園には砂場でトンネルを作る少年が3人いるのみである。


「まだ現れていないだけだ。麒麟隊には『千里眼』の能力を持つ者がいる。そいつのおかげで、ボツキャラ発生を事前に把握することができるんだ。ちなみに、俺たちボツキャラは三次元の人間には見えないからその点は安心しろ。でも触れることはできるからな。殴ったりすれば被害は出ちまう。透明人間ってところだな」


「なるほど! 古財さんは物知りですね!」

「常識だよ。それより佐々木、お前戦闘経験はあるのか?」

「う……ないです」


佐々木は途端に苦い顔をする。


「人を助けるために裏で戦う中学生、ていう設定のはずですけど、戦闘シーンは書かれることなくボツになってしまったようで。どうしたらよいかは、正直さっぱりです」


申し訳なさそうに目を伏せる。叱られている犬のようだ。


「まあ、想定内だ。さっき教えたコツを忘れるなよ」

「はい! 絶対忘れません!」


続けて佐々木が何か言おうと口を開いた瞬間、佐々木の体が勢いよく横に吹き飛んだ。彼の細い体は公園の中央にある時計にぶつかり停止する。


「がはっ……」


ボツキャラが発生したのだ。それは兎型の戦闘型機械だった。どれもペットの兎サイズだが、先ほどの一発からして、相当の攻撃力だ。しかもその数は約二十。囲まれている。俺は今回監督役として同行しているため、佐々木の任務に干渉しないよう、一気に公園の端まで距離を取った。


「始まったぞ佐々木! 後はお前次第だ!」

「……わかってます!」


ふらつきながらも立ち上がった佐々木は、先日同様両手を合わせ、目をつむる。


「来い!」


その瞬間、佐々木を中心に公園の半分ほどを埋め尽くす骸骨が顕現した。先頭の1人の骸骨には、キキから借りた大槌が握られている。武器の使用が一つまで認められたのだ。俺直伝のコツその一、「使えるものはすべて使え」をさっそく実行している。


 公園の中央に立つ時計下に佐々木、彼を中心に骸骨がひしめき、更にその周りを機械兎が包囲している。


機械兎が口から緑色の光線を一斉に射出。一番外側にいた骸骨たちがそれを受けて砕け散った。大槌を持っていた骸骨もだ。地面に大槌が転がる。しかし、各方向を骸骨一体ずつでしのげたのは上々だろう。


「行け!」


佐々木の叫びと共に骸骨全員が機械兎に突っ込んでいく。全員が同じ動作で拳をふるい、蹴りを入れる。どうやら、個別に別の動きをさせることはできないようだ。それに対し、機械兎は個別に動く。躱す者、蹴りを入れ返してくる者、骸骨でなく佐々木本人に向かう者もいる。骸骨は次々に砕かれていき、すでにその数は半分程になってしまった。どう見ても劣勢だ。


どうする、佐々木?


 ここまで見ている限りでは、機械兎の攻撃パターンは蹴りと光線射出の二つのみだとわかった。光線は数に限りでもあるのかそうそう打ってこず、近づいて蹴りを入れるのが主な攻撃のようだ。つまり近接戦にされやすいということ。骸骨それぞれを個別に操作できない佐々木は不利だ。


その時、砂場の少年たちを突っ切って佐々木に向かう機械兎が見えた。佐々木もそれに気が付く。少年たちをどかして通路を取ろうと、機械兎が少年に蹴りを入れようとする。


まずい。三次元、特に人間への被害はご法度だ。


蹴りが少年に届く直前、機械兎の頭上に大槌が現れた。振り下ろされた大槌に、そいつは潰されて消えてしまった。衝撃による風が吹く。少年たちは何事もなかったようにトンネル掘りを続けている。


あの瞬間、佐々木は落ちていた大槌に一番近い骸骨の片手のみを動かしたのだ。片手だけを本体から切り離し、大槌を拾わせ、そのまま機械兎を潰した。その代わり、他の骸骨は停止してしまったため、他の機械兎に木っ端微塵にされつつある。


「集まれ」


佐々木の声と同時に、砕かれて散った骸骨の破片たちが浮き上がり、少年たちの周りを隙間なく埋め尽くした。地面に骨でできた半球が形成される。なるほど。少年たちのガードというわけだ。一撃くらいなら耐えられるだろう。少年たちは熱中しているため当分動く心配もない。


「古財さん」


佐々木がこちらを向く。


「なんだ。喋ってる余裕ないぞ」

「わかってます。でもこれだけ。さっき言おうとしたんですけど、一つお願いを聞いてください」


「……言ってみろ」


「この任務に成功したら、僕のこと名前で呼んでください」


佐々木の表情は真剣だった。どう見てもふざけているわけではない。骸骨はほぼ壊滅された。佐々木本人に向かってきている機械兎もいる。それなのに、こんな状況でこいつはそんなことを願うのか。



「おもしれえ。いいぜ」



ぱっと佐々木の顔が、花でも咲いたように明るくなる。


「約束ですよ?」


そう言うと、佐々木は俺から目を離し、再び両手を合わせ目をつむった。


「来い! ボス!」


途端、佐々木の前に1体の骸骨が現れる。先程までのとは違う。それは体長がゆうに5メートルを超える、大型骸骨だった。コツその二、「規格外は強み」だが、まさかここまで規格外なものを出せたとは。


大骸骨は両手を頭上で叩き、機械兎の注目を集める。一斉に機械兎たちが大骸骨に向け走り出した。大骸骨は動かない。いよいよ距離が詰まる。それでも動かない。機械兎たちが蹴りのモーションに入った瞬間、大骸骨は跳ねた。機械兎の蹴りが空振り、突進していた彼らは互いに勢いのまま衝突してしまう。


さらにその頭上には、大骸骨。


大骸骨は膝を抱え、ヒップドロップをかました。ジャンプは軽いものなれど、その衝撃は予想以上だった。大骸骨の下で機械兎たちが文字となり蒸発していく。


「やった!」


消滅していく機械兎を見ながら、佐々木は小さくガッツポーズする。


が、そこに一匹。生き延びた機械兎が飛び出してきた。


「え」


機械兎は佐々木の腹に蹴りを入れる。腕で防御したものの再び彼は吹き飛ばされ、砂場近くに転がった。呻き悶えたその先には、先ほど落とした大槌がある。それに手を伸ばし、掴む。


立ち上がると、既に機械兎は追い打ちに向かってきていた。佐々木は深く息を吐き出し、しっかと相手の動きを捉えた。


機械兎の蹴りが飛んでくる。


佐々木は寸でのところで身を躱した。


3度目で既に速さに慣れたのだ。機械兎が佐々木の後方に勢いのまま流れていく。瞬時に振り返る佐々木。そこには機械兎の後姿。


コツその三、「死角を逃すな」


佐々木は大槌を左肩に担ぎ、反動を利用して機械兎の背中にぶちかます。機械兎は前方に飛んでいき、衝撃音と共に地面を転がった後、静かに文字になっていった。全ボツキャラ、削除完了である。


 佐々木は肩を大きく上下させながら、こちらを向いた。背後では、トンネル貫通に成功した少年たちが歓声を上げている。


「成功、ですか……?」

「ああ」


拍手して見せる。佐々木は骸骨たちを消し、ふらふらと俺のもとに近づく。


「これで、正入隊、なんですよね?」

「ああ。おめでとう」

「じゃ、じゃあ、あの、名前で……」



「あんたが佐々木か」



突如、低い声が響いた。公園に誰かが入ってくる。それは、


オフホワイトのアルパカだった。


「三次元から来たんだってな。今ので合格か?」

「そうだよ、内空閑」


片手を振り、手招きする。佐々木は突然の来訪者に困惑顔だ。


「え、え、アルパカが喋るんですか? いや二次元ならあるか?」

「俺はアルパカではない!」


内空閑が覇気のある声で否定した。思わず佐々木は飛び上がり、俺の背後に隠れる。


「俺は朱雀隊隊員・内空閑岳。役職は『シャーマン』だ。よろしくな」

「シャーマンが召喚したもの、じゃなくてシャーマンそのものなんですか?」

「そうだ」


ブッと地面につばを吐き、内空閑は佐々木の匂いを嗅いだ。


「ふむ、悪くない。すぐに死ぬ玉ではないだろうな」

「は、はあ。ありがとうございます」


「佐々木、お前の望みはなんだ?」

「え」


何の前触れもない質問に佐々木は目を見開いた。


「それは……青龍隊に入って、古財さんと一緒にいること、です」

「それはもう叶ったも同然だろう。塵芥会に入って活動していく中に、お前は何を望むのかと聞いている」


アルパカの意外と柔らかくない頭部に手を置きながら、

「内空閑、そのくらいにしてやれよ」

とたしなめる。


「いいや大事なことだ。どうなんだ、佐々木」

「僕は……」


佐々木は俯く。


「僕は正直、この世界にまだ詳しくありません。でも今、任務に成功して、人の役に立てました。すごく嬉しいです。だから、もっと強くなって、もっとたくさんの人を助けたいです!」


佐々木はまっすぐ内空閑を見据え、宣言した。内空閑もしばし佐々木を見据える。そして口を開いた。


「良い望みだ」


それだけ言い残すと、内空閑は姿を消した。狭間に帰ったのだろう。


「俺たちも帰るぞ、小太郎」


はっと彼はこちらを向く。その瞳は今までになく輝いており、頬は紅潮している。


「え、い、今、小太郎って……?」

「帰るぞ」

「ちょ、もう一回お願いします! 古財さん!」



喚く小太郎を無視し、俺は先に狭間に帰った。




あとがき

内空閑、ウォンバットにするかアルパカにするかで悩みました。血迷ってミズミミズとかにしなくてよかった……


☆、フォロー、コメントが推しの次に好物です。ご飯三杯いけます。よしなに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る