第3話 三次元からの加入者 BLではありません……よ?

「かっこいい」



少年はそう呟くと急に飛び起き、


「あ、あの! 僕、佐々木小太郎といいます。中西中学の2年生です。よろしくお願いします!」


怒涛の早口で自己紹介をし、頭を下げた。


「お、おう……」


その勢いに若干圧倒される。


「あなたのお名前は!?」

「ああ……古財、響也だ」

「古財響也さん! 渋さといい響きの良さといい、とてもお似合いですね! か、カッコいいです! 特に、その白髪が! いや、もちろんお顔も体つきもかっこいいのですが!」


少年、佐々木は鼻息荒くずいずいと顔を近づけてくる。その様は大型犬を彷彿とさせた。


「ちょっと待って! 落ち着いて。確認させてほしいんだけど、あなた、自分がボツキャラだってことはわかってる?」


横から桐ケ谷が間に入ってきた。なぜか鼻にしわを寄せて佐々木を睨んでいる。


「ボツキャラ……? あー、自分が中学生の女の子に作られたのは覚えています。でも、そうか。僕、ボツになったんですか?」


「ここにいるってことはそういうことね」


いつもより冷たく、桐ケ谷は言い放った。


「まあまあ、桐ケ谷。佐々木、少し話を聞いてくれるか?」

「はい古財さん!」


俺はボツキャラの漏出のこと、我々塵芥会のこと、その活動内容について説明した。そして、我々の仲間になる意思はないか、と訊ねた。断れば今すぐ削除されることは伏せておいた。


「古財さんも塵芥会に入っているんですか?」

「ああ」

「じゃあ入ります!」

「ちょっと何よそれ! 古財さん目当てみたいに!」


桐ケ谷がまた突っ込んでくる。青年はきょとんとして、


「古財さん目当てじゃだめですか?」


と訊ねた。後ろでピエトロがひゅう、と口笛を吹く。桐ケ谷は普段らしくなくわなわなと震え、「で、でも! 狭間に入れなければ素質なしってことで入会不可なんだからね!」と怒鳴った。三次元から狭間に帰る時は、ただ「狭間に行きたい」と呟くだけでいい。至極簡単なことだが、確かに狭間に入れるかは懸念された。しかし、



「入れましたね」



あっけなく佐々木は狭間に入ることができた。桐ケ谷はもはや握った拳を震わせていた。隣でエマと柊がクスクスと笑いあう。三人の様子を不思議に思いつつ、俺はとりあえず麒麟隊に佐々木のことをメッセージに書き送信した。すぐに来た返信は


「ホンブニツレテコイ」


本部とは、先日会議を行った場所である。俺たちはぞろぞろと本部を目指した。狭間は漆黒の中である。方向もさっぱりわからない。しかし、「本部に行きたい」と望みながら歩いてさえいれば、自然と本部に着くのである。同様に各隊のキャンプ地や、三次元につながる光の場所も難なくわかる。


 我々の本部は麒麟隊が作り出したものである。暗くてよく見えないがゴシック様式を取り入れているようで、大きな窓に尖塔をあしらった石造りになっている。このくらい、麒麟隊にとっては朝飯前である。そもそも、塵芥会を創設したのは麒麟隊の隊員たちなのだから。


「青龍隊、白虎隊、ただいま帰還しました」


と入り口で声を張る。そういうしきたりなのだ。メッセージが届く。「ハッケンシタボツキャラトコザイノミ、カイギシツニコイ」。マジかよ面倒くせえ。


「なぜ古財さんだけなんです! 私も行きたいです!」

桐ケ谷がビシッと手を挙げて主張する。


「俺だって誰かに変わってほしいよ、帰って寝たいのに。というか桐ケ谷、会議でもそのくらいはっきり話せよな」

「うっ、はい……」


なぜ俺まで呼ばれたのかはわからないが、ひとまずみんなとは別れて佐々木と会議室に入った。


 会議室内の円卓の中央にモニターとカメラが設置されている。麒麟隊は普段、我々とのやり取りはメッセージかこのモニターを介して行う。理由はわからない。麒麟隊はその多くが謎に包まれており、隊員の顔も知らない者が多い。佐々木をモニターの正面に座らせ、俺は佐々木から90度の位置の椅子に腰かけた。その時、モニターの電源が入り、


「ようこそ佐々木殿、早速で悪いが、ここではいくつか質問をさせてもらう。入隊面接だとでも思ってくれたまえ」

と、麒麟隊の新藤隊長の声が響いた。画面は黒いままだ。


「面接……!」

と呟き、佐々木の肩にわかりやすく力が入る。


「あー、その前にいいか? 新藤隊長? なんで俺まで呼ばれてんの。俺関係なくない?」

と、先ほどからの疑問をぶつけると、


「ああ、古財君か。なぜって、この件に関する責任者は君だろう? 連絡をくれたのは君なのだから」

と返してきやがった。全部桐ケ谷に押し付ければよかったってことか。


「で? 俺は何したらいいわけ?」

「佐々木殿が不合格となった時の、始末だ」


途端、先のとは異質の緊張感が佐々木にも伝わる。


「え……始末って?」

ちらと佐々木がこちらに目をやる。


「気にすんな。事務的なやつだよ」

「あ、ああ。なるほど」

佐々木はほっとした表情を浮かべる。


「では質問に入らせてもらう。佐々木殿は自分の設定をどれほど覚えている?」


「ええと、中西中学に通う2年生で、普段は普通の生徒です。ただ、夜になると、確か、骸骨を操って、困っている人を助ける、みたいな感じだったかと」


「今、その骸骨を操れるか?」


「ええ、多分」


佐々木は両手を顔の真ん中で合わせ目を閉じ、「来い!」と叫んだ。いかにも、中学生の作者が考えた感じの所作だ。と思っていると、円卓の上に成人ほどの大きさの骸骨が現れた。佐々木はその骸骨に手を挙げさせたり、ジャンプさせたり、阿波踊りを踊らせたりした。


「基本的に何でもできます」

「では数は増やせるか?」

「はい。でも制限はあると思います」

「何か弱点は?」

「あー……それは、決める前にもうボツにされたんだと思います。でも骨なので、折れることはあるかと」


「なるほど。では次の質問だ。君が塵芥会に入るということは、漏出したボツキャラの命を奪う任務を行うということだ。君にその覚悟はあるか?」


「っ……」

佐々木はしばし逡巡したが、顔を上げ、はっきりと


「やれます」

と宣言した。


「よろしい。では仮入隊ということにする。おめでとう」

モニターはあっさりとそれを告げた。


「本当ですか!?」

驚きに佐々木は思わず立ち上がった。椅子が倒れる。「おめでと~」と軽く拍手を送る。本人はモニターを凝視していて気付いていなかったが。


「ああ、本当だ。今は四隊とも人手が足りていないのだが、どこか希望する部隊はあるか?」


「古財さんのいるところです!」


「青龍隊か。あそこは首都圏を担当しているし、ちょうどいいだろう。後のことは古財君、君に任せるぞ」


やっぱり。こうなる気はしていた。しかし、


「ちょっと待ってよ新藤隊長」

「なんだ?」

「仮入隊ってどういうこと? 正式じゃないの?」

「ああ、それか。いやなに。ただ実力も見ずに入隊させるわけにはいかないと思っただけだ」

「つまり?」


「次に青龍隊担当地区に現れたボツキャラを佐々木殿に一任する。削除できれば正式入隊だ。古財君が監督として同伴しなさい」


「なるほど」

言われてみれば妥当な判断だ。


「では、質問は以上だ」

といったきり、モニターの電源が切れる。面接終了だ。


「おつかれ」

「僕、嬉しいです! これで古財さんと一緒にいられるんですね!」

大きな瞳をきらきらと輝かせ、佐々木は軽く飛び跳ねる。後ろで、先ほど出した骸骨が両手を上げてジャンプしていた。


「仮だけどな。次の任務頑張れよ」

「はい! 僕がんばります!」


もし不合格になったら……先程の新藤隊長の言葉を思い返す。


「とりあえず、青龍隊キャンプ地に連れていく。次の任務までそこで暮らせ」

「ありがとうございます! 古財さん!」


会議室を出ると、そこには先ほど別れた隊員たちが全員残っていた。


「なんだ、先に帰ったのかと思った」

「結果が気になるじゃないですか! どうだったんですか!?」

桐ケ谷が真っ先に口を開く。


「仮入隊、もらえました!」

嬉しそうに答える佐々木の笑顔に、桐ケ谷は「あがっ」ともらし、その場に崩れた。


「じゃあパーティーじゃない? パーティーしましょうよ」

ピエトロが指を鳴らしてウィンクする。


「わあ。僕たち白虎隊も参加したいです!」

エマが両手を振り振り、そう希望する。

「もちろんオッケー」

「やったねひー君! あ、隊長は来なくてもいいよ?」

「うう、行くわよ。行かせていただきますよ!」


立ち上がった桐ケ谷は怒鳴っているのになぜか目に涙を浮かべていた。どうしたのだろう。というか、


「俺は遠慮しとくぞ。帰って寝る」

「え、古財さんも参加してくれなきゃ! 僕寂しいです」


佐々木が口を尖らせ上目遣いでこちらを見つめてくる。


「そうですよ! 古財さんがいないなら私も行きません!」

桐ケ谷まで同調してくる。


「いや、でも俺は本当に寝たくてだな……」

「はいはい! もちろん古財隊長も参加しますよ。っていうかさせます!」

とピエトロが肩を組んでくる。


「はあ!?」

「まあまあ、いいじゃないですか」



 結局俺は青龍隊キャンプ地における「佐々木君仮入隊おめでとうパーティー」に強制的に参加させられ、延々と続くお祭り騒ぎに付き合わされる羽目になった。テンションの上がったあいつらはヤバい。ピエトロはカジノ大会を始めるし、キキはボウガンやらハルバードやらで演武を披露し、エマ・柊コンビは瞬間移動を使った一発芸を連発しスベリまくる。佐々木はよほど楽しいようで、すべての芸で笑っていたが。酒も入っていないのにあんな状態になれるのが恐ろしい……


 3時間ほど我慢したところで「外の空気を吸ってくる」と言って席を立った。狭間に新鮮な空気も何もないのだが。ふう、と一人虚空を眺めていると、メッセージが届いた。麒麟隊からだ。



「トウキョウニキカイガタノボツキャラハッセイ。ササキヲドウインセヨ」





あとがき

 まだ3話なのですが、早くもイケメンコンテストに応募するには字数が足りなさそう……と懸念しています。

書きたいところまで書くと6万字なんてゆうに超えそう……タスケテ……


引き続き、☆やフォロー、コメントお待ちしています!犬に唐揚げを食べられた作者にご慈悲を……

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