十四話 交通事故
辺りが静まり返っている図書館の中で、僕と山川花梨は読書をしている。今、僕は宇宙の図鑑を見ている。宇宙は壮大で計り知れない。こういうのを観ているとワクワクしてくる。逆に花梨はギャグマンガを笑いを堪えながら読んでいる。
僕はドラッグストアでペットボトルのコーラを買って持ってきた。花梨はどこで買ったのかは訊いてないが、緑茶を持って来てテーブルの上に置いている。
私語は控えないといけないので、このワクワク感は花梨に伝えることはできない。
一時間半ほどいたかな、僕らは帰ることにした。図書館の外に出て、ようやく話せた。
「楽しかったなー。思わず吹き出しそうになったよ」
「そうみたいだね、笑いを堪えているのはわかってたよ」
「あらっ、気付いてた?」
「うん、僕は宇宙の図鑑を観ていてひとりでワクワクしていたよ」
「昭雄は図鑑好きだよね」
「そうだね」
歩きながら花梨は言った。
「次、どこ行く?」
「うーん、そうだな。カラオケに行って熱唱したいけどお金ないしな」
「今度奢ってくれるなら、今回は奢るよ?」
「うん! 奢るよ! 約束する」
「じゃあ、今から行こう」
そう言って僕らは自転車でカラオケボックスに向かった。
花梨の自転車の色は赤。それに、電動自転車。凄いし羨ましい。僕のは黒で、普通の自転車。なんだか劣等感がある。たかが自転車のことくらいで。でも、自転車だって値段が高いものもあるからあなどれない。これは、自分の自転車が花梨より安いから卑下したくないので思ったことだ。
カラオケボックスでは三時間歌った。熱唱して発散できた。よかった。僕は若いけれど、最近の歌はあまりよくわからない。アニメのしかも古いアニメの歌はわかる。そういうのばかり歌っていた。だから、花梨は知らないと言っていた。でも、僕も花梨も楽しいと思うことができた。
時刻は午後五時を過ぎていた。
「そろそろ帰ろうか。夕食も食べないといけないし」
花梨はそう言った。
「そうだね、帰ろうか。じゃあ、またね」
「うん。また」
そう言って僕らは別れた。
疲れたけれど、今日は楽しかった。また、花梨と遊びたい。眠くなってきた。気を付けて自転車運転しなきゃ。そう思いながら自転車に乗っていると後ろから車が来た。普通自動車だ。しかも勢いよく走行してきた。酔っ払い運転なのかフラフラしながら僕のほうに寄ってきた。まさか……! 僕は車にひかれた。
気付いたらベッドの上だった。しかも、病院の。なぜ……? あっ、僕、交通事故にあったんだった。誰かが救急車を呼んでくれたんだ。おかげで僕は一命を取り留めた。目を開けると
「目覚めたね?」
聴いたことのある声。
「ん……」
すると、心配そうな顔付きで僕を見下ろしている。花梨だ。
「あ……。花梨。いてくれたんだ。もしかして、花梨が救急車呼んでくれたの?」
「そうだよ。だって、私が歩き始めてすぐにガシャン! と凄い物音がしたからびっくりして振り返ったら、昭雄が倒れてて……。でも、加害者はそこから逃げちゃってさ」
「そうだったんだ、でも、ありがとう」
僕は力なく言った。
「しっかりしてね」
花梨はガッツポーズをして見せた。
「サンキュー」
「頭から血を流していたからきっと、ぶったのかもね」
「そうなのか。僕、よく生きてたな」
「死なれたら困る」
「そうなの?」
「うん、だって学校には友達と呼べるような人はいないし、昭雄くらいだよ、気兼ねなく喋れるのは」
「それは初耳」
「でしょ、私も言ったことなかったからね」
友達がいないってきついよなぁ、そう思った。花梨は性格だっていいし明るい。なのになぜ? もしかしたら学校では性格が違うのか? わからないけれど。
僕の隣には今にも死にそうな老人が寝ている。ちょっと怖い。僕は頭を動かすと痛みが走った。僕は大丈夫なのか? 自問自答したが分からない。そのとき、「佐田さん」と声を掛けられた。「はい」と返事をすると、
「検査しますので着いて来てね」
「あのう、」
「はい?」
「頭動かすと痛いんですよ。相当強く地面に打ったんですかね?」
「それはちょっとわからないけどね。とりあえず検査しましょう」
「はい」
そう返事をし花梨には、
「行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。私もそろそろ帰るね」
「わかった、気を付けてね」
「ありがと」
僕は看護師のあとを着いて歩きながら、花梨に手を振った。
それに気分も冴えない。なぜだろう? 脳に障がいでも負ったかな。まずはMRIで検査をした。そのあと、採血もした。何種類かの検査をし、病室に戻った。次に姿を現したのは、父さんだ。
「昭雄、大丈夫か?」
「父さん、よく僕が入院したってわかったね? 仕事は? 大丈夫だよ」
「それはな、知り合いがたまたまお前が車にひかれる現場を見たらしく、連絡してくれたんだ」
「そうなんだ、今回の事故は僕が急に飛び出したから僕が悪いのさ」
「仕事は早退してきたぞ」
「僕なら大丈夫なのに」
「そうもいかんだろ。俺の心配はしなくていいから自分の心配をしろ」
僕は苦笑いを浮かべた。
「今、検査してきたところなのさ」
「そうか、異常なければいいな」
「そうだね」
三十分くらい父さんと雑談したあと父さんは帰った。それから少ししてから神崎志穂からLINEがきた。たまに遊ぶやつだがどうしたのだろう。本文は、<昭雄? 入院したんだって? 大丈夫?>
何で知っているんだ? いったい誰から聞いたのか。
<どうして知ってるの?>
<山川さんが教えてくれたのよ。LINE来たの>
<志穂、花梨と仲いいんだ>
<うーん、遊んだりはしないけど、挨拶は学校でするよ。今度遊ぼうという話をしたからLINE交換したけど、遊んでないわ>
<そうなんだ>
<今からお見舞い行くね?>
<来てくれるんだ。ありがとう。実はねさっき、花梨も来てくれたんだ>
<へ~、モテるじゃない>
<いや、そんなことはないよ>
思わずニヤけてしまった。
そこでLINEは一旦終わった。
約一時間後、志穂が来てくれた。嬉しい。
「こんにちは!」
「おー! こんちは!」
「怪我の具合いはどう?」
「大したことないよ、一応、検査はしたけど」
「元気そうね、よかった」
「サンキュ!」
病室の窓際にある椅子を志穂は持って来て座って話していた。
一時間ほど喋っただろうか、志穂は、
「そろそろ帰ろうかな」
そう言った。
「うん、わかった。来てくれてありがとう」
「じゃあ、またね! お大事に」
言ってから帰った。
病室は静まり返った。でも、これはこれで気楽。
翌日の昼前。医師と看護師が僕のところにやって来た。
「佐田さん、検査の結果は異常なしだよ。だから退院していいよ」
「あっ、わかりました。ありがとうございました」
看護師が話し出し、医師は去って行った。
「佐田さん、今、お家に迎えに来てくれる人いる?」
「父さんは仕事に行ってると思います」
「そう。何時ごろ帰ってくるの?」
「多分、十八時ごろだと思います」
「それからお迎え頼んでもらえる?」
「荷物は少ないので歩いて帰りますよ」
「家、近いの?」
「近くはないけど大丈夫です」
「わかった。気を付けて帰ってね!」
「はい」
そういえば、自転車がない。事故現場にまだあるのだろうか。さすがに昨日の出来事だからないだろう。僕をひいた犯人はどこに行ったのか。警察は探しているのだろうか。僕が飛び出したとはいえ、加害者は車の運転手になるだろう。
つづく……
少年の現実 遠藤良二 @endoryoji
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