第2章 9
被疑者の住んでいるアパートと道路を隔てて数件のファミレスが並んでいた。被疑者を監視するには都合のよいことであった。
岩城陽介がファミレスに入ると、糸井譲治と戸川章星が朝食セットを食べているところであった。
「岩城さんの朝食セットも注文しておきましたよ」
糸井譲治がトーストを食べながら言った。
「朝食を食べながら仕事ができるなんてラッキーですね。戸川さんは食べ終わったら帰ってください。私が変わりますから」
陽介がそう言って、テーブル席に座ると、店員が朝食セットを運んできて、陽介の座るテーブルに置いた。
「それでは僕はこれで上らせていただきます」
朝食セットを食べ終わった戸川章星は立ち上がりながら言った。
「被疑者は大企業の正社員みたいですね」
朝食セットのスープを一口飲んでから陽介が言った。
「大企業の正社員という将来のある恵まれた地位にありながら、こんなことに足を突っ込むなんて勿体無いですね」
今まで齧っていたトーストを皿に戻して、サラダをフォークで食べながら糸井譲治が言った。
陽介と譲治が座っているテーブルは窓際で、窓からは道路越しに被疑者の住んでいるアパートの玄関がよく見えた。陽介が朝食セットを食べ終わるまで、譲治は玄関を監視していた。
「もうそろそろ出社で玄関から出てくる時間ですかね」
譲治は被疑者が住んでいると思われるアパートの玄関をじっと見ていた。
「彼ですかね。歩道を10メートル位歩いたところでこの店を出ていきますか」
カップに残ったコーヒーを全部飲み干してから、陽介が言った。
陽介と譲治は、被疑者がアパートの玄関から出てきて、歩道を10メートル程歩いたところで、店を出た。横断歩道の信号が青に変わるのを待っている間に、被疑者はさらに数メートル歩いていた。横断歩道を横切った後、被疑者を見失ってしまう寸前の距離まで離れていたので、陽介と譲治は早歩きで歩き続け、数メートルまで近づいたところで、被疑者の歩く速度に合わせて歩いた。
陽介と譲治が、被疑者が出社の朝尾行しているのは、彼の会社を突き止めるためではなかった。彼の会社の所在はすでに個人情報の中から入手していた。会社に銃を持ち込むだろうとは考えてはいなかった。懸念していたのは、銃を入手したのは、使用するためではなく、高値で売りさばくためではないかと思っていたからである。というのは彼が多額の借金の問題を抱えているのではないかという個人情報も入手されていたからである。出社途中で誰かにこっそりと渡すかも知れない。その可能性がある限り、その現場をおさえるために彼の自宅から会社までの出勤途中は尾行しなければならなかった。
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