第2章 7

「烏田がアカウントを登録していると思われるSNS上で、烏田がアップしているものを全部見ましたが、銃のキーワードらしきものは見当たらなかったのですが、検索アプリはどうやって見つけ出したのですか」

岩城陽介は、パソコンの席から立ち上がりながら言った。

「烏田は暗号文の様な仕方で、銃の販売を広告していたのですが、然程手の混んだ暗号文ではなかったので、この検索アプリでいとも容易く見つけ出すことができました。つまり、金と充を等間隔で使うような文で銃とは関係のない商品の紹介をしているのです」

多田丸均が言った。

「どのようにしてこの暗号が隠されている広告文のところから、銃を購入した者を探し出すのですか」

岩城陽介が言った。

「烏田が、IPスプーフィングのツールを使って作ったなりすましのIPアドレスと、暗号が隠されている広告文にアクセスしたIPアドレスの両方が、ログファイルに記録されているサーバーをまず探します」

 普通個人のルーターのIPアドレスは、プロバイダーが割り当てたIPアドレスになるので、毎回同じ数字になるわけではない。そため一般の個人のルーターから住所などの情報を知ることは不可能である。しかし、多田丸が使用しているIPアドレス検索ツールは、ログファイルに記録されたIPアドレスからプロバイダーを検索し、そのプロバイダーの個人情報を参照している。プロバイダーの情報にアクセスできるのはサイバー犯罪対策課に与えられている権限である。

 多田丸均は、パソコン画面に表示された烏田のなりすましのIPアドレスのリストと、暗号が隠された広告文にアクセスしたIPアドレスのリスト全てに、マウスをクリックしてチェックをいれた。リターンキーを叩く音が響いた。

「ネット銀行用のすべてのサーバーのログファイルに関しては、特別サイバー犯罪対策班に閲覧の権限が与えられているのです」

パソコン画面をじっと見ながら多田丸均は続けて言った。

「烏田のなりすましのIPアドレス中の一つと、暗号が隠された広告文にアクセスしたIPアドレスの中の一つが記録されたサーバーが、ヒットされました」

パソコン画面に、検索の結果出てきたIPアドレスが表示された。

「これが2つのIPアドレスが記録されたログファイルが、保存されているサーバーのIPアドレスです」

パソコン画面に表示されたIPアドレスを指で指し示しながら、多田丸均が言った。

「このIPアドレスのサーバーの所有者を、調べることはできるのですか」

パソコン画面に表示されているIPアドレスをじっと見つめながら、岩城陽介は言った。

「それでは今から検索してみます」

多田丸均は別のアプリケーションを立ち上げ、IPアドレスを入力した。パソコン画面には誰でも読める日本語の文字が表示された。ネット銀行の銀行名であった。

「どうやらネット銀行のサーバーですね。この暗号が隠された広告文にアクセスしたIPアドレスの持ち主が、このネット銀行の口座にお金を振り込んで、烏田から銃を購入したのでしょうね」

多田丸均が言った。

「このIPアドレスのルーターの持ち主が、足りない一丁の拳銃をもっている可能性が大いにあるということですね」

岩城陽介が言った。

「IPスプーフィングのツールを使った可能性は考えられますか」

岩城陽介は続けて言った。

「大いにあります」

多田丸均が言った。

 被疑者のルーターのIPアドレスから、プロバイダーを割り出し、サイバー犯罪対策課の権限で、被疑者の個人情報を得るのに、多田丸均が要した時間は、驚くほど短時間であった。その情報をもとに、 岩城陽介と糸井譲治と戸川章星と米倉庄司は、烏田を尋問した。その情報の正確さに、烏田は最初から諦めたらしく、犯行をすべて認めた。烏田の調書は予想に反して短時間で作成することができた。

 岩城陽介と糸井譲治と戸川章星は、警視庁に戻った。銃密輸関連の対策本部で、彼らは、密輸された14丁の拳銃が、13丁になった経緯について報告した。行方不明の1丁の銃は烏田がネットを通して、売りさばいたことと、ネットを通してその銃を購入した者の個人名と住所が判明したこととが、彼らの報告の主な内容だった。翌日から彼らは、銃を購入したと思われる人物を、交代で監視・尾行することになった。

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