第2章 5
「これが烏田の自宅から押収したノートパソコンです」
北海道警サイバー犯罪対策課の多田丸均はノートパソコンの電源を入れながら言った。
烏田のノートパソコンの電源を入れた後、対策室のデスクトップパソコンの椅子に座った。
「それでは現在日本で使用可能なすべてのSNSで、烏田慎吾の名で検索してみますね」
素早いキーボードさばきで、キーワードを入力したあと、多田丸は言った。
「同姓同名が35件出て来ましたが、違いますね」
「随分直ぐに判明するのですね」
「烏田から押収したルーターのグローバルIPアドレスの履歴を参照しただけですから」
「IPアドレスだけで烏田と無関係だと断定できるのですか。IPスプーフィングはしているとは考えられないんですか」
「烏田のコンピューターとインターネットの能力は、IPスプーフィングをするほどではないと思います」
「偽名を使ってSNS利用しているとしたら、顔認証で検索できませんか」
「やってみます」
多田丸は前もってスキャンしておいた烏田の写真を、検索ボックスに貼り付けた。日本国内で利用可能なすべてのSNSに関連付けて検索をかけた。検索結果はゼロ件であった。
「全くヒットしませんでしたね。烏田は相当用心深い人物みたいですね。これだけSNSが流行っている時代なのに、1件もヒットしないというのは珍しいですね。集合写真でもヒットしないのですからね」
「集合写真というと何人くらいまで検索できるんですか」
「解像度にもよりますが、いま出ているポピュラーなモデルのスマホで撮影したものなら、ハロウィーンの夜の渋谷のスクランブルの群衆からでも検索できますね」
「随分優れもののアプリケーションがあるのですね」
「警視庁と北海道警と全国の県警のサイバー犯罪対策課が、予算と人材を総結集して作ったものですからね」
北海道警のサイバー犯罪対策室の中で、岩城陽介、糸井譲治、戸川章星、米倉庄司、多田丸均の5人は、もう打つ手はないのかという深刻な顔をして黙ったまま、多田丸が座っているパソコンデスクに設置してあるモニターを、暫く見つめていた。
「烏田の家から押収したのはこのパソコンだけですか」
糸井譲治が沈黙を破った。
「記録媒体と書類が全部処分されていたから、そのパソコンだけです」
多田丸均はテーブルに置かれた烏田のパソコンの方を、一瞬見たかと思うと、再び自分の目の前にあるパソコンの画面を見つめて言った。
「でも、烏田の家の屋内を撮影した写真がテーブルの上に置いてあります」
再びテーブルの方を向いたかと思うと、テーブルの上の烏田のノートパソコンの方を指さした。烏田のノートパソコンの脇にはA4の膨らんだ封筒があった。糸井譲治はその封筒を口を下に向けて、中身の写真をテーブル上に落として並べた。戸川章星が写真を並べるのを手伝った。烏田のノートパソコン以外何も置いていないテープルの上は、隙間がないほど写真で埋まった。
「SNSのプロフィールで自分の顔写真ではなくて、飼っているペットとか、自宅の近くの風景写真とか、自分の気に入っている持ち物とかを使う人も結構いるんです」
糸井譲治は写真を一枚一枚じっと見ながら言った。
「隣のテーブルの上には、棚の中身や机の引き出しの中身を写した写真が置いてあります」
多田丸均は、烏田のノートパソコンの置いてあるパソコンの隣りにあるテーブルを指さした。
そのテーブル上にはA4の膨らんだ封筒だけが置いてあった。岩城陽介は封筒の中身の写真を全部出して、テーブルの上に置いてから、一枚一枚並べた。米倉庄司が写真を並べるのを手伝った。
「取り敢えず、烏田の持ち物に絞って検索してみたらどうですか」
米倉庄司が、残った写真を、テーブル上の空いた場所に置きながら言った。
「プロフィールに使う写真ですから、何の特徴もない平凡なものは使わないでしょう。印象を与えるような特徴のあるものをまず選び出してみますか」
米倉庄司も残った写真をテーブルの空いた場所に置きながら言った。
岩城陽介と糸井譲治と戸川章星と米倉庄司は2つのテーブルの周りを右往左往して、時々選びだした写真を拾い上げて言った。それぞれが個人的に、プロフィールで使いそうな持ち物の写真と思えるものをすべて拾い上げたところで、多田丸均の座っているパソコンデスクの周りに集まった。各自殆ど一斉に、多田丸均が座っているパソコンデスクの上に、写真の束を置いた。
多田丸均は、パソコンの画面に、烏田の自宅で撮った写真の画像データーの一覧を表示させた。
「写真の右下に、ID番号が振ってあったかと思うのですが、その番号を読んでもらってもいいですか」
岩城陽介は先程パソコンデスクの上に置いた写真の束を拾い上げて、写真を一枚ずつ捲りながらID番号を読み上げた。多田丸均は、パソコンの画面に表示されている画像データーの一覧に表示されたものの中から、岩城陽介が読み上げている番号と一致している番号が振ってある画像に、マウスをクリックしながら、チェックを入れていった。その後、糸井譲治と戸川章星と米倉庄司も同じように自分たちがパソコンデスクに置いた写真の束を拾い上げて、写真のID番号を読み上げていった。ID番号を読み上げる度に、多田丸均が持つマウスのクリック音が、サイバー犯罪対策室の中で響いていた。
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