第1章 14

「なぜ夫はまた同じような痛い目に遭うのでしょうか?」

今川真弓は膝の上で両手を震えるほど握りしめながら言った。

「私もそのことを考えて思っていたのですが」

真弓の体が微かに震えているのに気づいて、微かに瞼を震わせながら、高山光昭は続けて言った。

「健さんは、ハッカーたちの間ではホワイトハッカーとして知られているんですよ。サイバー犯罪摘発で警察に協力しているし、冤罪を晴らすために弁護士に協力している。そのため敵が多いのかも知れない。IPアドレスだけで逮捕に警察が踏み切ることを不審に思って、私が信頼している警視庁サイバー犯罪対策課の課長に非公式に接触して、重要なことを聞くことが出来ました。これは奥さんだけには知らせてもいいということなので、他言しないでください。健さんは78時間以内に必ず開放されますから安心してください。実は健さんにも了解済みのことなのです。これは私だから話してくれたのです。そして奥さん以外には話さないということが条件です。ですから絶対他言しないでください。前回の事件の時奥さんが驚くくらい口が硬いことを知ったものだから、今回敢えて言うのですが」

ちょっとの沈黙の間をおいてから光昭は続けて言った。

「警視庁サイバー対策課には課長の下に次長が三人いるのだが、その中に一人課長が信頼していない次長がいて、その次長は自分の出世しか考えていない。今回その次長が集めた対策チームは新人の澤田龍と変わり者の加山順以外は全員次長のイエスマンで、出世のことしか考えていない。その次長と次長が今回組んだチームは、課長の秘策の道具になる訳だ。狙いは、真犯人の狙い通りご主人が逮捕されることによって、真犯人を安心させ、油断させることだ。真犯人に隙きを与えることによって、真犯人が墓穴を掘る。可能性として数パーセントにも満たないが、そのような可能性にかけている」

「夫が無罪であると最初から信じてくれて有難うございます。課長は主人を最初から無罪と信じてくれているみたいですが。どうしてですか」

「ご主人が最初から犯行を一貫して否定しているし、証拠がIPアドレスだけということもありますが、前回の事件の時健さんが、ホワイトハッカーであることを知ったからです」

「お話を聞いていると今回のサイバー対策課の対応は茶番劇ですよね。どうして今回そこまで無様なことまでして、真犯人を捕まえようとしているのでしょうか」

「今回の犯人は、これまでサイバー捜査対策課が散々手を焼いてきたハッカー組織と繋がりがあるに違いないと踏んでいるみたいです。だからどんなことをしてでも真犯人の足取りを掴みたいと思っているようです」

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