第1章 13
江上教授の研究室は、響子が大学生だった頃と変わらず学生と卒業生で賑やかだった。教授に相談に来ているというより、自分たちだけで雑談をしに来ている者ばかりのような感じだった。
「これはIPスプーフィングのためのツールだね」
パソコンの画面に映し出された響子が今まで見たこともない例のファイルを見ながら、江上教授が言った。
「IPスプーフィング? 何ですか?」
自分のパソコンで呆れるほど見た何か得体の知れないファイルを、響子も見ながら言った。
「IPスプーフィングのことは講義の中で触れたことがないから初耳かもしれないか。IPアドレスのことは、講義の中で散々話したから分かるよな。一般家庭ではルーターにグローバルIPアドレスが割り当てられているが、世界に一つしかない番号が割り当てられる。それでインターネットに繋がるんだが、といったような話は何度もしたと思うが。電話番号のように一つしかない番号だから、繋がった日時がわかればその日時に繋がっていたルーター、それに繋がっていたパソコン、それを使用していた個人を特定できるよな。だから不正アクセスがあった時、サーバーのログファイルを調べると、誰が不正アクセスしたか突き止めることができる。だからIPアドレスを調べることで不正アクセスの犯人を突き止めることが以前は出来た。だが今は警察はIPアドレスだけの手がかりで逮捕はしない。IPアドレスだけの逮捕で冤罪があったからね。他人のIPアドレスになりすまして不正アクセスするという事件があったんだよ。IPスプーフィングというのはIPアドレスを偽装することだよ。このファイルはそのためのツールだね。まあ一般の人はパソコンを使う場合、ウインドウズかマックを使うのだろうが、このツールはウインドウズやマックでは動かない。ウブントゥというリナックス系のパソコンで動くんだ。まあ一般の人はリナックスなど使っていないだろうが」
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