第20話 元勇者たちのダンジョン攻略Ⅰ
濃密な一日を経て翌日のこと。
今日も今日とて何も変わらない。
朝からアルバが危うく寝過ごすところだった俺を起こしてくれて、ジェニトを置いて行こうとしたら身体を操作されて、教室に着いたらユノがマオを無視していて、クトリス先生の朝礼はあってないようなものだ。
――何ら変わらない。変えられない。
そして、昨日の帰り間際に聞いた連絡通り、二度目のダンジョンを使った実践演習。
今回もクトリス先生の虜である筋肉ダルマ教官が授業の説明を行う。
「――昨日と同じく、二人一組でダンジョンに潜ってもらう。前回は第三層に降りてもらう。剣の代わりに包丁を、盾の代わりにフライパンを握った専業主婦でもまだまだ攻略可能な階層だ。諸君らなら軽々とクリアすることだろう」
直後、パーティーを組むよう促されるが、俺は例に漏れずぼっち。
クトリス教官とパーティーを組むべく声をかけに行く。
「あらあら、トーマくんは優しいですね。毎回毎回、こうして一人ハブにされてるんですもの。不貞腐れずに、偉い偉い」
そう思うなら、ハブられているなんて言葉遣いやめてくれませんか……と言いたいところだが、そこに提言した時点で負けを認めてしまったような気がするので、口を真一文字につぐむしかない。
クトリス教官に頭をヨシヨシされるしかない。
もう一生この扱いで良いと思わなくもない。
「――トーマ!」
駆け寄ってくるのは同い年の魔王様。
元勇者の身としては、命の危険を感じてもおかしくはない構図。
「……マオ、どうかしたか?」
「
「……あれ? マオも一人なのか?」
それはおかしい。
俺とマオがパーティを組むということは、一人他にあぶれている者がいるはずで。
だというのに出発順――ここは最後尾。
俺たちを除いて誰ひとり残らず、すでにダンジョン内だ。
「それがの? ユノちゃんを誘ったのだが、無視して一人で行ってしまって……」
朝に続いて、今回も空振りとは……。
昨日の喧嘩は売り言葉に買い言葉。
ユノもそこまで責められる立場にはないはずにもかかわらず、ご立腹の様子。
よほど魔王の肩を持つような行いが気に入らなかったらしい。
ユノの境遇を聞いた身としては分からなくもないが、このままマオが腐っていき、人間嫌いになってしまっては世界が滅んでしまう。
この授業が終わったら、二人の間を取り保たなくては……などと考え――、
「まあ、俺も一人だし、べつに問題は――」
「あらぁ? それじゃあ、先生はどうなるのかしら?」
このまま置いて行かれるのを察してマオとの間に割り込んでくる。
……顔が近い。
「……そりゃあ、今日はマオと組むので、解散なのでは?」
「ふぅーん――」
とてもつまらなさそうである。
俺の回答をよそに何か思案気な様子を醸し出している。
「じゃあ、時間ももったいないので――」
「やっぱり、先生も行きます」
「え……?」
「べつに問題はないですよ、ね?」
かわいく小首を傾げて、異論は認めないとばかりに口に人差し指を押し当てられれば、まさか断れる男はいるまいよ。
***
第二層の中腹。
子供の足で十数分歩いたところ――。
異変はすぐに起きた。
それはダンジョン奥――行く手からではなく、もと来た道、後方から。
カチカチと昨日も聞いた、覚えのある音がする。
それも前回の単独とは異なり、大量に。
――反射で股を濡らしそうになるが、さすがに二度目はいかん。
思うところもあって、元勇者は尿道を引き締める。
「なんか前回と違って……」
「ええ、こんなの初めて……」
「妾は昨日と一緒だのう……」
マオのこの見慣れたかのような、落ち着いた反応との落差に、昨日の事を思い出す。
走馬灯にしては早すぎるが――。
ユノが、マオのことを死線を潜り抜けた仲だと、大げさに言っていたことを思い出す。
それがこれのことだとしたら……。
「なんか――魔物の数……多くないか?」
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