完成後のお楽しみ

 そのようにして、文字通りガノの手を借りながらGプラ制作を進めていったモギであるが……。

 作業の進捗具合について述べるならば、これはもう牛歩の歩みという他にないだろう。


 何しろ、片手が使えず、いちいちランナーやパーツを支えてもらっているのだ。

 これで作業が、はかどるはずなどない。

 ただ、二人で雑談を交えながらそうするのはなかなかに楽しく、彼女がまたもやご馳走してくれた『深夜(白昼)のまるごとカマンベールチーズカリカリベーコンチャーハン』なるチャーハンもまた、なるほど女の子一人では再現する気にならないという言葉がうなずける、ド迫力の逸品であった。


 そして、その日の内に完成しなかったことも、特に嘆く必要はない。

 折しも、時期は三月の後半……。

 学生にとっては待ちに待った、春休みの季節なのである。


 もちろん、春休みと言えど柔道部の活動はあるし、新学期に向けて予習を怠るわけにはいかない。

 だが、普段の学校生活に比べれば、格段に自由な時間が増えるのも確かである。

 二人は、その時間をGプラ制作に当てた。


 いちいちご馳走になることへ感謝したモギが、返礼の食材などを持ち込んだこともあって、ちょっとした合宿気分である。

 歴代作品の主題歌などを流して盛り上がりつつ、徐々に……しかし着実に機体を完成へと近づけてゆく。


 合間合間に、彼女がこさえてくれた軽食や菓子を食べつつ、購入した原作漫画の感想を言い合うのも、振り返ってみればプラスに働いたと思う。

 早く、この機体を完成させたい……。

 そして、劇中で見せたような活躍を再現したり、劇中ではしていない、自分が思いついたポージングなどを取らせてみたい……。

 その思いがモチベーションとなり、製作の手を早めてくれたのだ。


 あるいは、傷の治りが早かったのにもそれが働いたのかもしれない……。

 モギの右腕は、医者が驚くほどの治癒力を発揮し、三月も末日を迎える今日この日には、ギプスを外すまでに至っていたのである。


 そしてこの日は、いよいよプラモが完成を迎えようかという日であった。


「それじゃ、いいか?」


 問いかけると、隣席の彼女が静かにうなずく。

 それにうながされ、最後に残った部品……。

 隠し腕とも称すべき機能を持つフロントスカートへ装着するための、チェーンパーツに二度切りを施した。


「これで、全部か。

 ……壮観だな」


 すでに、工作机の上には組み上がった機体本体が直立姿勢で待機しており……。

 その周囲には、これに装備される品々やビームエフェクトのパーツがずらりと並べられていた。

 その片隅に、たった今完成したチェーンを添える。


 その姿の、なんと壮観なことだろうか……。

 機体本体は、X状のバーニアこそ特徴的なものの、非常にスマートなシルエットであり、言い方を変えるならばシンプルな外観をしていた。

 しかし、今は非装着状態であるマントのボリュームは、機体全体を覆うだけありかなりのものであり……。

 拳銃と剣柄を合体させることで完成するライフルも、中世風の格好良さが存在する。


 白眉はくびといえるのが、原作でも披露していた豊富な内臓武器を再現するために用意された品々だ。


 ザンバー、サーベル、マーカー、シールドといった、各種ビーム兵装を再現するためのエフェクトパーツぐん……。

 ふくらはき部分の柄に装着することも、原作のように足裏へ装着することも可能なダガーの刃……。

 投てきしたザンバーを回収しつつ敵機をなぎ払う姿が非常に印象的だった、隠し腕スカート用のチェーンも忘れてはならない。


 しかも、チタニウムフィニッシュを施された限定品であるこのプラモは、部品一つ一つに金属的な光沢が宿っており……。

 先日のEGとは比べ物にならない、圧倒的な実在性が感じられるのだ。


「カッコイイな……。

 もう、その言葉しか出てこない」


 うっとりとしながら、直立する機体を眺める。

 なんだか、こうしてただ眺めているだけでも、無限に時間を潰せてしまいそうな気がした。

 それは、ただ単純にプラモデルとしての造形が優れているからではない……。

 あれだけ大量に存在した部品を、一つ一つ丁寧に二度切りし、少しずつ組み上げていった思い出……。

 隣の少女と共にそうした思い出が、十センチ少々の機体に込められているからだ。


「ふっふっふ……。

 モギ君、Gプラは立ってりゃ嬉しいただの銅像じゃあない、稼働する模型なんですよ!

 Gプラは動かさなきゃ!

 長い時間かけて作ったのは、動かすためでしょ!?」


「ガノ、急に口調を変えてどうした?」


「ちょっと盟主王な気分になりまして……。

 ともかく、せっかく作ったんですから、棒立ちさせてるだけじゃもったいないですよ!」


「そうだな!」


 なんのモノマネを披露したのかは知らないが、彼女の言うことはもっともである。

 まずは、本体のみで軽く可動範囲を確認してみた。


「おお……グリグリとポーズが決まるな!」


 宇宙空間を拘束機動しているイメージで……。

 フレキシブルに稼働するバーニアや、腕、腰、膝、足首など各部の角度と向きを調節し、びしりと決まったポーズに感嘆する。


「それでこの……開く口!」


 人間でいう口にあたる部分をいじると、それはわずかに開き、まるで機械が咆哮しているかのようになった。


「これ、原作ですげえ印象的だったよな。

 まるで、この機体が感情を表してるみたいで」


「設定上は、熱に弱いメインコンピュータのために放熱する機構なんですけどね。

 ここぞという場面で挿入されるフェイスオープンは、最高潮の盛り上がりどころと言って過言ではないでしょう。

 ……さあさあ! 武装させてみましょう!」


「おう!」


 うながされるまま、一度頭部を外しマントを装着させる。

 そうすると、まるで荒野をさすらうガンマンのような……。

 スゴ味と言うべきただならなさが、機体から漂った。


「せっかくだから、右手にライフルを持たせて……左手は開いてるやつに差し替えて……」


「モギ君! このアクションベースを使いましょう!」


「ケースのGプラにも使ってるやつか? よっしゃ!」


 ガノが取り出してきた、可動式のアームが付いた台座にプラモをセットする。

 そうすることで固定された機体の、なんとカッコイイことであろうか……。


「おおー……!

 おおおお……!」


 口を開くことで、雄々しさを獲得した頭部の造形……。

 展開したバーニアと樹脂製マントによって感じられる、躍動感……。

 マントの隙間から突き出されたライフルの、今にも敵を撃ち抜きそうな迫力……。

 空いた左手は開いた状態のものをチョイスしており、いつでもライフルを分割してザンバーに持ち替えられるような、油断なさが漂っていた。


 これを見れば、もう言葉はいらず……。

 ただただ、感動の溜め息を吐き出す他になかった。


「こう、握り拳以外の手が付いてくるのもいいな。

 柔道やってる時にも感じるけど、手の動きってすごく感情が伝わるし」


「ふっふっふ……。

 やはり、安値のキットだとどうしても握り拳だけになりがちですからね。

 手で表情を加えられるのは、ハイエンドモデルの特権とも言えるでしょう。

 ささ、今度は敵機との対決状態を再現してみましょう!」


 そう言ったガノが、ガラスケースから先日ゲームで練習台となった機体……マント装着の黒い同型機を取り出してくる。

 そして、やはりアクションベースを駆使してポージングさせたのは、ランサーを突き出した突撃姿勢だ。


「おお! 原作ではやっていない装備での対決だな!」


「ふふ……寝返った後はもうマントを装着してませんし、対決時に使ったのはサーベルやダガーでしたからね。

 このように、オリジナルシチュエーションを楽しめるのもGプラの魅力と言えるでしょう!」


「だな!」


 うなずき、槍の突撃を迎え撃つべく機体の武器をザンバーに持ち替えさせる。

 するとガノも、左手にランサー、右手にザンバーという超攻撃的な接近戦装備に変更させ……。


 その後も、二人であーだこーだと言いながら、様々なポージングやシチュエーションを楽しんだ。

 ただ対決するだけならば、それこそ先日のゲームでも可能ではあるが……。

 無限大に発想を変化させ、いちいちそれを実現できるのは、なるほど、Gプラでしか味わえない楽しみと言えるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る