3,質問と現状把握



 とりあえず何か……名前の件は置いといて、現状が何も分からない状況なので俺は彼女にいくつかの質問をした。


「あなたは誰ですか?」

「さっき名乗ったでしょう!リングハルト・メイスザーディア、…今は下位貴族よ!

 まあ、この屋敷の主とでも思ってなさい!」


 そういう彼女の歳はいくつだろうか?見た目から十代後半といったところだろうか?

 質問を続ける。


「ここはどこですか?」

「リングハルト家の別邸よ!」


「僕はなぜここにいるのですか?」

「あなたには、、、そう、個人的に受けた恩があるの。それを返すためにあんたにはしばらくここにいてもらうわ!」


「私は自分の記憶が無いようなのですがどうしてですか?」

「……それは…あんたはここに来る前にあなた自身で記憶を消したのよ…

 記憶が戻るのかどうかは私もよくわからないわ。」


 歯切れ悪く彼女はいう。一応こちらを気遣ってくれているようだ


 しかし、またよく分からないことが増えた…

 自分で記憶を消しただって?なぜそんなことをした?

 頭を抱えつつ過去の俺の行動を恨む。


 そして恩?どうやらやはり記憶が欠落しているようだ。

 恩があるということは、少なくとも取って食おうというわけではないだろう。

 少なくともそこには安心する。


 そして、俺は、、いやこの体は、とでもいうべきだろうか?

 今の実感的には俺がこの体に憑依しているように感じるのだ。

 この声といい一人称といい…


 そして、先ほど気になったことを彼女に聞いてみる。


「リングハルトという名は家名ですか?」

「?、そうよ!リングハルト家はもともと高位貴族の家だったの!今は落ちぶれてるけど…

 それでも私がいつかこの家を立て直してみせるわ!」


 何処か複雑そうな表情をしながらも、声を張り上げて彼女は言った。

 別にそこまでは聞いていないのだが…

 まあ、些細なことでも情報が聞けるのはいいことだ。それくらい今の俺は今の状況に収集ができていない所なのだ。


 そして、どうやらこの世界では家名は名前の前に付くらしい。日本式だ。

 彼女が一瞬不思議そうな表情をしていたので、どうやらこの世界では常識のようだ。


「後ろの二人は?」

「ああ…彼女たちはあなたのお世話係よ。」


 後ろで控えていた彼女たちが前に出る。


「あなたから見て右がメイド長のリデル、左が普通メイドのミーニャ、」


 二人は恭しく頭を下げる。

 どうやらこの世界ではメイドは黒一色のゴシック服がメイドの制服らしい。黒一色なのは汚れが目立たないように、装飾が少ないのは動きやすさを重視しているからだろうか?


「何か必要なものとか要求があるなら、彼女たちに言いつけるように!」

 変わらず張った声で彼女は言う。


「今は人手が足りてなくてこんなものしか用意できなかったけど、後々人員は補充するわ!」

 こんなものとはどういうことだろうと考えつつ――


 ――最後に俺は

「僕はこれから何をされるの?」

「あなたはここにいるだけいいわ!ただし、この屋敷の敷地外に出ることだけは許さないわ!」


 不躾な態度は相変わらずだが、その声には怒気がこもっていた。

 俺は過去に何かやらかしたのかもしれない。



 それにしても彼女の目的がよく分からない。

 もう今日は分からないとしか頭で考えてない気がする。もう疲れた。


「――質問は以上?私はこれで失礼するわ!あとは三人でよろしく!」


 気品がある声だが、投げやりに彼女はそう言い放った。

 そういい彼女は足早に扉の方へ歩いていく、歩き方にどこか気品が感じられる。

 貴族だということもうなずける。




 ――部屋には残された三人と静寂が残った。

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