第2章 魔術師との出会い

第5話 魔法と魔術

この世界に来て1ヶ月が経った。

今、俺が住んでいるのは都市グランから荷馬車で2時間離れたところにあるシャーマルという町だ。

グランと比較すると全体の土地は広いが、5分の1程度の人口で基本的に畑作を生業としている人が多い。


子供たちのために新しい楽しみを作ると報告すると王様は大変喜んだ。

そして、王様が俺に与えたのがシャーマルにある家と3ヶ月程度生活出来る金銭、そしてハンナさんだ。

てっきり、グラン内に住まわせてくれてそれなりの軍資金をくれると思っていたが、かなり雑に放り出される形になった。

王様曰く

「私が全面的に協力し国民に召喚者の考えを発表すると国が変わったのではなく合わせたことになる。できれば国民自ら受け入れ変わって欲しい。」

との事。

唐突に呼びだして、知らない世界に住めと言っているのだから、もう少し甘やかしてくれてもいいじゃないか。

なんともドライな王様だ。


これからの生活のためにも生活費を稼がないといけない。

シャーマルに来て、家が片付いてすぐやった事はギルドへの登録だった。

ギルドには職人への弟子入りや手伝いの求人が張り出されいる。

今、俺はシャーマルにある食事処の皿洗い兼ウェイターとして働いている。

夫婦2人が経営する小さいけど評判のいい川魚料理の店だ。

ちなみにハンナさんも、俺ほどの頻度ではないが花屋さんで働いている。


「ハンナさんは王様からお金貰えてるんでしょ?」

「これをきっかけにメイドに関わる収入は完全に途切れております。……あなたのために貯金は崩しませんよ。」


ということで、2人で生活できるだけ稼ぐことにした。

あのクソ王様……俺の扱いは雑でいいけど、せめてハンナさんはいつも通り扱えよ。


もちろん、この世界で生活するのが俺の目的ではない。

目的は子供たちが楽しめて、誰でも考えや疑問を国全体に主張できるSNSを作ること。

動画でも、絵でも、文章でも、政治的なことでも、なんでも投稿できる……俺が住んでいた世界のSNSの形をすべて含んだ「総合的なSNS」が最終目標だ。

でも、この世界でモノ開発したりするには何をしたらいいんだろう。

全く分からない。


「リストウォレットやカメラってどうやって作られてるの?」

「この国には国家魔術師という、魔術を極めた方々がいます。その方々が魔術によって機能を満たす製品を世に送り出しています。」


国の発展に貢献するため、優秀な魔術師を見つけ管理するために作られたのが「国家魔術協会」というものらしい。

この国にいる魔術に適正のある人を「魔術学校」に囲い、この国のために魔術を極め、卒業できたら「国家魔術師」として協会に所属し働く。

リストウォレットは召喚者が内容を話し、国家魔術師がそのイメージを魔術で現実にしたということらしい。

国家魔術師は現在500人程度。

都市グランだけで人口が10万人いると考えると、この国で国家魔術師になるにはとんでもなく狭き門だ。


「国家魔術協会は常時、国民からの意見書を受け入れています。そこに文書として提案書を提出し、良い案と国家魔術師が判断すると、協会に呼ばれ会議に参加することができます。」

「なるほど……じゃあ自分たちで開発したものは持っていくことはできるの?」

「さぁ?わからないですが、もし作れるのなら、持ち込むことも可能だと思います。」


どちらにせよ、今後は国家魔術師たちとの交流は必須というわけだ。

現状ですぐ活動するには、提案書を国家魔術師に提出することか。


「とにかく、俺らじゃ無理だから、優秀な魔法使いたちに依頼して作ってもらうわけね。」

「魔"法"使いではなく魔"術"使いです。」


何が違うんだよ。

魔法も魔術も俺からしたらファンタジーすぎて一緒にしか思えんけど。


「4元素魔法と言われ、魔術の基盤になるものが魔法です。私が防空壕で使った着火シンティッラ、これは4元素のうちの一つの火魔法です。魔法は火・水・風・土の4系統があります。」

「……じゃあ魔術との違いは何?」

「具体的にやりましょうか?」


ハンナさんは防空壕の時と同じく、手のひらに指をこすりつけ、指先に火をつけた。

説明から判断するなら、これはおそらく魔法止まりのもの。

ここから先に進むと魔術になるのだろう。


「ここまでが魔法です。もちろんこの状態でも物体に影響を与えることができます。」

「ろうそくに火をつけていたもんな。」

「ここから、この火を飛ばしたり、ほかの魔法を混ぜて状態を変えたりすることを魔術と呼びます。……炎風ファイアウィンド。」


ハンナさんが新しく詠唱すると、指先の火が竜巻のように渦巻いた。

おそらく、火の魔法に風の魔法を足し、新たな魔術として編み込んだということだろう。

4系統の魔法を組み合わせて、攻撃したり機能を満たす何かを作ったりすることをこの世界では魔術と呼ぶことが分かった。


「昔の魔術は攻撃魔法が主でした。なので、今、私がやっているようなシンプルなものが多かったので、沢山の人が魔術を使えました。風の鎧をまとう,水の球を飛ばすといった感じのものですね。ですが、戦争に勝つために、敵兵士に情報を吐かせる魔術など、複雑な魔術がどんどんと開発されていきました。」

「その複雑な魔術が今のカメラやリストウォレットの開発に活かされているというわけか。」


この国の魔術の立ち位置はよく分かった。

だが、この4系統はあくまで自然現象に近いものだ。

カメラみたいに、映像を撮って、保存して、再生する……こんな複雑なものをどうやって作っているんだ?


「ハンナさんは何か難しい魔術知らないの?」

「私が知っている魔術の一つに目視記憶アイメモリというものがあります。これは戦争時に敵国の地形を記憶するために使われた魔術です。」

「いや……4元素魔法で全く作れるイメージが湧かないんだけど。」

「土に水が染み込むようなイメージで目で見た地形を脳に染み込ませ、記憶できるように魔術を編みこむらしいです。私は一切、理解できませんが。」

「説明されても分からん。」


俺とハンナさんは首を傾げた。

どう考えても土と水の魔法でそんな複雑な魔術を編めるとイメージできない。

どうやら、この"俺とハンナさんではイメージできない"というところが大事らしい。

この魔術を作った人は当然のようにイメージができ、実現できているということ。

だからこそ協会を作り、魔術を編める優れたイメージ力を持つ人間を集めているわけだ。

これは……俺が魔術を使えるようになる日は来ないな。


「魔法止まりであればマチダ様でも練習すれば使えるようになりますよ。火が付くとか水が流れるとかであれば理解できますよね。」

「その程度であれば一応……。」

「あとは体内にある魔素の循環させコントロールができれば。」


魔法や魔術はもちろん無から発動するわけではない。

空気中には魔素があり、我々の体はその空気中にある魔素が取り込まれ、蓄積、循環しているらしい。

ちなみに、カメラなどの製品は空気中の魔素を集める「充魔機」によって魔素を集め、機械に魔素を流し込み、使える状態にする。

魔素は自然に湧くとのことですごくエコだ。

蓄積、循環は人によってレベルが違う。

男女差も激しいらしく、蓄積量は男が、循環は女が優れているらしい。

この体……トスカノ・ハスレムさんはいかほどの蓄積・循環が可能だった方なのかな。

魔術は無理そうだが、魔法はぜひとも使えるようになりたいので、コツコツ練習していこう。

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