第3話 お母さんボアはご立腹?

 ビッグボアのクエストは西の森にいる冒険者ギルドの報告員にお話しすればスタートするらしい。


「君がこのクエストを受ける冒険者か。他のメンバーの姿が見当たらないようだけど、いつ頃合流するんだ?」


「私は一人です!」


「その銀の髪に褐色の肌……そうか、君はダークエルフだったか。ならば活躍を期待させてもらおう。判っていると思うけど、くれぐれも森の中で火を使っちゃダメだよ?」


「心得ています」


 そもそも私、魔法覚えても使う予定ないんだけどね!

 だから今回もカウンター狙いで頑張って行くよー。


「ならばよし。ビッグボアはミニボアの周辺に居るよ。姿が見当たらない時はミニボアを攻撃すると高確率で現れる」


「それって子供のイノシシを攻撃されてお母さんイノシシが出てくるってことですか?」


「うん、そういう事だ。でもかわいそうだなんて思わないでくれよ? あいつらは増えすぎるとここら辺の木々を薙ぎ倒す。自然環境を維持するためにも間引かなくちゃならないんだ」


「世知辛いですね」


「本当にな。それでも食ってくためにはこう云う仕事も嫌がらずにしなくちゃいけないんだ」


 報告員さんも少し疲れてる感じでした。

 きっと苦労してるんだろうなぁ。ウチの兄貴も同じくらい苦労すればいいのに。


 少し歩いてうさちゃんと遭遇した私は千切っては投げて前進していく。

 オットーさんから購入してたベストがなかったら危なかったかも。

 結構直撃を受けてるのにこのタランチュラベストはある程度の攻撃を弾いてくれるのだ。


「見つけた! でも小さい。子供の方だ」


 子供と言ってもうさちゃんよりは普通に大きいんだよね。まずは如何すべきか考えよう。


 |ミニボアA、B、Cが現れた!

 |ミニボアA、B、Cは木の芽を食べている。

 |マールはモフウサギの肉をそっと差し伸べた。

 |ミニボアAはモフウサギの肉を食べている。

 |ミニボアBはモフウサギの肉を見ている。

 |ミニボアCはモフウサギの肉に興味がないようだ。

 |マールのモフモフ攻撃!

 |ミニボアAは目を細めて喜んだ。


「ほーら、よしよしよし。いい子ですね~」


 取り敢えず餌付けから始めることにした。

 植物の根っこを食べてるミニボアちゃんをモフりながら、道中で仕留めたうさちゃんのお肉をあげると喜んで食べていた。

 なんだよー。駆除モンスターといってもこうやってモフらせてくれるいい子達じゃないか。

 私っていっつも動物達に逃げられちゃうんだけど、ここはVR。

 本当の世界じゃないから私を嫌わない子達もいるんだ。最高じゃないかな?


 この子達とは是非仲良くしていきたいところだ。

 でも、背後から近づいてくる気配は明らかに怒っていて、うちの子に何してるのよ! と言いたげに足元の土を掘っている。

 お母さんの登場だ。


 |ビッグボアが現れた!

 |マールはモフウサギの肉を差し伸べた

 |ミス! ビッグボアはマールに狙いを定めている

 |ビッグボアの突進攻撃!

 |マールはひらりと身をかわした!

 |ビッグボアは力を溜めている

 |ミニボアA、B、Cはそそくさと逃げ出した。


 ああ、逃げちゃった。

 でも私はお母さんを倒すためにきてるんだよね。だからあの子達を怯えさせなくて良かったと自らに良い含めた。よーし、こい!

 私は右手に本を構え、ビッグボアを迎え撃つ!


 |ビッグボアの突進攻撃!

 |マールに5ポイントのダメージ!

 |マールは気合いの雄叫びを上げた!

 |ビッグボアは足を竦ませた

 |マールはビッグボアに勢いよく飛びかかった!

 |マールの正拳突き!

 |会心の一撃!

 |ビッグボアに20ポイントのダメージ!

 |ビッグボアは怯えている

 |マールは華麗な飛び蹴りを放った!

 |会心の一撃!

 |ビッグボアに15ポイントのダメージ!

 |ビッグボアを倒した!

 |マールはレベルが上がった!

 |生命が10UP、魔力が10UPした

 |マールはレベルが上がった!

 |生命が10UP、魔力が10UPした

 |知力が3UPした

 |ビッグボアの毛皮を手に入れた

 |ビッグボアのお肉を手に入れた

 |称号:蛮族を手に入れた


 ふぅ、熱い戦いだった。

 普段は鬱陶しい兄貴だけど、戦闘センスだけは抜群なのよね。

 それにしても気合いの雄叫びって何よ。まるで技名みたいに扱われててびっくりだ。

 あと称号とか貰えた。何これ?

 しかも蛮族とか。レディに対して失礼過ぎない?


 えーと、なになに?

 ふーん。名前の割りにこれはこれで結構素敵な効果がついてるんだ。


 称号:蛮族

 連続で30回以上、魔法を使わずにモンスターを倒した【ダークエルフ】に贈られる称号。

 どうも君は誇り高き我らとは別の血を受け継いでしまったようだ。

 効果:戦闘時に武器を装備しない時のダメージ1.5倍


 すごい! でもどこかしらバカにされてる気がするのはどうしてだろう?

 ちょっとムカついてる私がいる。

 あと知力が何故か+3。

 もしかしてレベルが関係あるのかな?


 私のレベルは丁度10になったところだ。

 でも気になる事がある。

 私、本を装備してるの。

 なのに装備してないことになってるのはどうしてだろう?


 その後も同じようにうさちゃんのお肉で懐柔してモフらせてもらいつつ、お母さんボアを退治した。でもレベルは上がらなかったんだよね。

 レベル10まではすごい速さで上がったのに、変だね。

 何か秘密があるのかな? まぁいいや。

 後でギルドのお姉さんに聞けばいいか。


「やあ、【ダークエルフ】のお嬢さん。ビッグボアの討伐は終わったのかな?」


「はい。これが討伐の証拠、になるかわかりませんが」


「確かにこれはビッグボアの毛皮だ。しかしここまで状態のいい毛皮はなかなかお目にかかれない。お嬢ちゃんなんて言って悪かったな。これからはダークエルフの戦士として扱わせてもらうよ。改めてお礼をする!」


 やたら高確率で手に入る毛皮を取り出すと、報告員のお兄さんは改めて頭を下げた後、クエストの依頼書に終了を告げるサインをしてくれた。

 終了の確認はスタンプでもサインでもどちらでもいいみたい。


 森から街へは徒歩で10分くらい。

 道中やっぱりうさちゃんに絡まれたりするけれど、それを返り討ちにしながらギルドへと到着し、受付のお姉さんにクエスト達成の報告をした。

 その際一緒にアイテムの納品も行ってしまう。


「はい、確かに終了の確認をしました。まずは報酬の500Gよ」


「ありがとうございます!」


 高い買い物をした後だったから、たった500Gとは思わない。だって残金740Gだもん。ばっと計算したって倍近くになってる。


「そしてこちらが納品査定の結果よ。凄いわ、マールさん。こんなに品質の良いビッグボアの皮は初めて見るわ。これなら相場に少し色をつけても買い手がつくわよ」


「わぁ!」


「そして肝心のお値段は色をつけて一枚100G。三枚あるから300Gね」


「おぉ!」


 うさちゃんの尻尾の三倍以上! 体がおっきいだけあるね!


「ほかにお肉も状態がいいから一つ50Gで買い取るわよ。牙はごめんなさい、少しお値段が下がって10Gになってしまうわ。どうしても手に入りやすい素材は価格が落ちてしまうの」


「大丈夫です。むしろほか二つがそれを打ち消してくれてるので問題ありません」


「そう言ってくれると助かるわ。ではボア素材は全部で480G。そしてウサギ素材は2100G。一見ウサギ素材の方が高いと錯覚してしまうけど、こればかりは持ってきた数によるものね。まさか尻尾だけで70個持ってきた人は初めて見るもの」


「えへへ」


 やや呆れたようにお姉さんは私を見下ろす。

 ちょっと照れながら私は自信満々に受け答えする。


 そう、私は前回うさちゃんの尻尾が高く売れると知り、お肉と尻尾以外はその場で捨ててしまっていた。なんでその場で捨てたかと言えば、単純にアイテムバッグの限界に達したからである。アイテムには一個づつ重さが設定されていて、無駄に重いお肉関連と毛皮より、尻尾が軽かった。それだけだ。

 ただでさえ重いお母さんボアの素材を入れてたのもあるんだけど。


「そう言えばお姉さん、【ダークエルフ】について色々知っていると見越して相談に乗ってもらっていいですか?」


「もちろんよ。期待の新人を教え導くのが私たちの務めでもあるしね。それで、何が聞きたいのかしら?」


 私はここまでにあった冒険譚を淡々と述べ、手に入れた称号と装備の関係性を答えた。しかし受付のお姉さんは少し困ったような表情を浮かべてしまった。


「ごめんなさい、その質問は私には答えられそうもないわ」


「えっと、理由を伺っても?」


「もちろんよ。あなたの様な経験をした【ダークエルフ】を単純に私が知らないだけなの。ごめんなさいね?」


 ペコペコと平謝りするお姉さん。

 ああ、そんな。こちらこそ変な遊び方しててごめんなさい!

 居た堪れなくなってこちらもペコペコ頭を下げた。

 少ししてお姉さんが吹き出して笑う。

 私も釣られて笑ってしまった。


「ふふ、なんだかおかしくて笑ってしまったわ。でもね、マールさんの行動は決して無駄じゃないって私は信じてる。たとえ前例がなくても、それがマールさんの魅力だもの。そうでしょう?」


「はい! そう言っていただけたら嬉しいです」


「その調子よ。それとレベルが10で止まってしまったのはギルドのランクFの上限レベルが10までだからなの」


「そうだったんですね。ではランクアップの条件を教えてください」


「はい。ランクアップには一定数の討伐記録と、ギルドへの納品査定額が5000G以上であること」


「えっ、と?」


「つまりマールさんは無事に条件を達成してる事になるわね。まさか初日で達成してしまうとは思わなかったわ。おめでとうございます。今日からマールさんのギルドランクはEになりました。受けられるクエストも増えて、レベルの上限も20まで上昇したわ」


「ありがとうございます!」


「それとランクE向けのクエスト見積もりも今しちゃう?」


「ああ、いえ。それはまだやめておきます」


「あらどうして?」


「まだもう一つ、お姉さんから課せられたクエストが終わってませんから。それが終わってからでいいですよ」


「律儀ねぇ。でも偉いわ。勤勉な子ほど伸びるもの」


「えへへ。でも目的は図書館で本を読むためなんですけどね!」


「図書館の出入りはランクDからだったわね」


「そうなんですよー。そのためにもランクアップの為の素材は必要で、実績も多くいる。そう思ったらまずはこっちを終わらせてからで良いかなって」


「そうね、マールさんがそう思ったのならその気持ちを尊重するわ。頑張ってくださいね!」


「はい! 行ってきます!」


 さぁ、サクサク進もうか。

 私はギルドの受付から出ると、ルンルン気分で目的地まで向かった。


 ──────────────────

 プレイヤーネーム:マール

 種族:ダークエルフ

 種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%


 冒険者ランク:E

 LV:10/20

 依頼達成回数:2回

 称号:『蛮族』

 資金:3320G


 生命:100

 魔力:100

 

 筋力:100

 耐久:0+[+15]

 知力:3+[+1]

 精神:0+[+11]

 器用:0

 敏捷:0

 幸運:0

 割り振り可能ステータスポイント:18


 武器:初心者の本★[知力、精神+1]

 体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]

 体下:初心者のスカート

 頭部:なし

 装飾:なし

 装飾:なし


 ◼️戦闘スタイル【ダークエルフ】

 <物理>苦手:威力20%ダウン

 気合の咆哮

 ジャストカウンター

 飛び蹴り

 正拳突き

 羽交い締め


 <魔法>得意:威力10%アップ

 なし


 <補助>

 なし


 <召喚>

 なし

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