第2話 ウサちゃんを追い払うだけの簡単なお仕事

 早速図書館を探して練り歩いて数時間。

 しかしそこは出入りするのに冒険者ランクが最低でもDは必要だと言われてなくなく撤退。

 早くも計画は頓挫し、じゃあログアウトするかという気にもなれずにダメ元で冒険者ギルドへと赴いていた。

 そこで見つけた手堅い仕事。


「あ、これが良いかも。すいませーん、これお願いします」


「はーい、薬草採取クエストですね。ですがダークエルフの方ですと少し難しいかもしれませんね」


 私は早速クエストを受けるべく冒険者ギルドに来ていた。

 これがいいかもと思った依頼はなぜか受付のお姉さんの前で受領されることなく止まってる。

 およよ? クエスト用紙を受け取ったお姉さんが困ったように私を見つめた。


「えと、何故ダメなのか理由を教えてください」


「そうですねー、単純に種族によって得手不得手と言うのがあるのです」


「つまりダークエルフは薬草採取に適さないと?」


「残念ですが。でもどうしても採取がしたいと言うのであればお止めしません。どうされますか? こちらでダークエルフの方に有利なクエストを見繕っても良いのですが」


 どうしようかな?

 ぶっちゃけ戦闘を回避さえ出来ればどっちでもいい。

 薬草採取なら戦闘しなくてもいいかなーと思っただけだし。


「ではお姉さんにお願いしてもよろしいですか?」


「はい。少しお時間を要しますのでこちらの番号札をお持ちください。またお呼びするので近くの席でお待ち下さい」


「はーい」


 なんだか時間が余っちゃった。

 ギルドの中はワイワイ賑わってて、いろんな種族でごった返している。

 こんなに混むなんて思わなかった。

 でも仕方ないか。今話題のゲームだってお父さん言ってたし。兄貴はゲームは軟弱者のやるものだって取り上げようとするし、実はログインするまでに一悶着していたりするのだ。


「29番でお待ちの方ー」


「はーい」


 私の順番だ。手を上げて場所を譲ってくれと頼み込めばあっさり譲ってくれた。

 みんないい人ばかりだ。兄貴にも見習って欲しいものである。


「ではこちらのクエストからお選びください」


 手渡されたクエストはどう見繕っても戦闘を避けられないものばかりである。

 おかしいな。私の華奢な見た目からどうやってパワー系だと見破った?

 仕方ないので受けることにした。

 お姉さんは無理しなくてもいいのよと言ってくれたが、せっかく自分のために選んでくれたのだ。できる限りで頑張りたい。


 ──────────────────

 ◼️クエストNo.0001

 畑からモフウサギを追い出せ。

 モフウサギ討伐数 0/5

 報酬:100G

 依頼主:西区のマーサ

 ──────────────────

 ◼️クエストNo.0004

 森の暴れん坊ビッグボア討伐令

 ビッグボア討伐数0/3

 報酬:500G

 依頼主:冒険者ギルド

 ──────────────────

 ◼️クエストNo.0010

 森の主の怒りを収めよ

 グレータースネーク0/1

 報酬:1,500G

 依頼主:冒険者ギルド

 ──────────────────


 全部討伐系なのは今更か。

 取り敢えずうさちゃんだけでも終わらせよう。

 クエストを選択すると矢印が出るので、それに従って進んでいく。


 矢印に従って歩くとそこにおばちゃんが居て、話しかけるとクエストが始まったみたい。


「お嬢ちゃんがモフウサギを追い払ってくれる人かい? なんだか弱そうだねぇ」


「あはは」


 どうやら人を見た目で見てくれるおばちゃんが依頼主さんらしい。

 いい人だ。マーサさんは一人暮らしで、畑を荒らしにくるモフウサギに迷惑しているのだと話してくれた。

 裏庭に案内されると、そこには確かに白い毛玉のうさちゃんが絶賛お食事中だった。


「それじゃあ任せたよ」


「すぐに追い払っちゃいますね!」


 おばちゃんは心配そうに私を見送り、私はうさちゃんの前に躍り出る。

 食事を邪魔されたうさちゃんが飛びかかってくる。

 そこで私は持ってる本の角をうさちゃんの額に向けて振りかぶった!


 |モフウサギの突進攻撃!

 |マールはひらりと身をかわした!

 |マールのカウンターアタック!

 |モフウサギに痛恨の一撃!

 |モフウサギを退治した!

 |モフウサギの皮を手に入れた。


 おお、皮は初めてだ。チュートリアルでは尻尾だったからね。

 他には耳とか手とか目玉とかも落ちるのかな?

 脳味噌とかはらわたが手に入ったら嫌だな。

 そんな事を考えながら周囲を見渡す。


 そうそう、うさちゃんは倒されると新しいのがやってくるようだ。

 まるでワンコそばのように倒した順からやって来る。

 上等だよ!

 つい喧嘩腰になりながら立ちはだかる私。

 第二ラウンドの始まりだ!


 大体似た感じなので戦闘シーンは割愛。

 今度はお肉が手に入った。

 どう見たって骨つき肉なんだけど、サイズがウサギのそれじゃない。

 でも『モフウサギの肉』と表示されてるのはゲーム的な措置なんだろうか?

 よかった『モフウサギのはらわた』とか細かい設定がなくて。

 ホッと胸を撫で下ろしながら安堵する。


 出てくる場所は大体同じで、狙ったように同じ場所の野菜を食べるようだ。

 ならば野菜にたどり着く前に倒しちゃえばいいのでは?

 そう考えた私はタイミングを見計らって本を額に向けて振り下ろし続けた。


 凄い! 流れるような作業に思わず笑いが止まらない!

 だって出てきた瞬間は無防備で、こっちは本を振り下ろすだけでいいんだから。

 ある程度倒したらおばちゃんがやってきて、終了みたい。

 どうも制限時間が決まってるようだね。


「おや、お嬢ちゃん凄いじゃないか。あの悪食からここまで野菜を守るなんて」


「えへへ。ちょっと効率の良いやり方を見つけてしまって」


「よくわからないけど見た目で判断しちまったあたしが悪いさね。これをギルドに持っていきな。そうすればお嬢ちゃんに報酬が入るよ」


「ありがとうございます!」


 受け取った紙にはクエスト達成の印が押されていた。

 それを満面の笑みで受付のお姉さんの元へ持っていくと、見込んだ通りでしたと報酬を用意してくれた。

 手持ちのお金に100G加算され、3,100Gになる。


「ついでにお荷物の毛皮やお肉も買い取りますよ」


「お願いします!」


「では私がトレードの申請をしますので、OKを選択してください。そこで売りたいアイテムを設定すると代金が支払われます」


「分かりました」


 言われた通りに選択する。

 特に使い道がわからないので皮とお肉は全部渡して、尻尾は迷った末に一個だけ残して後は全部お姉さんに渡した。

 一応チュートリアルで手に入れた記念のアイテムでもあるのだ。


「皮が一つ5G、お肉が8G、尻尾が30Gですが宜しいですか?」


 おお、尻尾が結構高い。お願いしますと返答し、換金してもらう。


「では皮が60枚で300G、お肉が180個で1,440G、尻尾が30個で900G。合計で2,640Gで宜しいですか?」


「はい!」


 手元には5,740Gもの大金がある。

 なんだか一気に大金持ちになった気分。

 でもゲームだからね。すぐになくなっちゃうんだろうな。


 どうせならここいらで防具を固めておきたい。

 次のお相手はイノシシさんだ。

 うさちゃんより大きいだろうし、スピードだって早いかもしれない。

 お父さんや兄貴だったら気合で倒せそうだけど、私は経験したことがないので万が一を考えて防御を固めておきたじゃった。


「あー、筋力にツッコミ過ぎたのはまずったかも」


 私の呟きを聞いたプレイヤーが2、3度振り返った気がしたけど気のせいかな?

 気のせいだと思い込んで防具屋さんを探した。


 防具屋さんを見つけたのはいいけど、また新たな問題が浮上する。


「強い防具を買いたいなら全身鎧がいいが、お嬢ちゃんダークエルフだろう? 金属を用いた装備にマイナス補正かかるけどいいのかい?」


「え?」


「知らないって顔だな。いいだろう、教えてやる。防御力の高い装備っていうのは基本的にドワーフやリザードマン向けだ。エルフやダークエルフなら硬くても皮装備が良いぜ。動き回るあんたらならそういうのを選ぶもんだ」


「ではその中で一番防御力がありそうなのを選んでください」


「予算は?」


「5,000内で」


「ならこいつだ。タランチュラベスト。耐久は+15で、ここらで買える品じゃ一級品だ。第二エリアのボスが落とす大蜘蛛の糸を編み込んだ魔法耐性にも強い代物だ。お嬢ちゃんの様な魔法が得意なダークエルフにはぴったりだぜ?」


「うーん、少し考えさせてください」


「おう、自分の命を守るもんだからな。いっぱい悩め」


 ガッハッハと防具を売っていたプレイヤーさん、オットーさんは豪快に笑う。

 この人の声、凄くうるさい。

 お腹の芯に響く様な、それでいて全く不快感がない不思議な声である。


 しかしアイアンプレイトの耐久+28に比べてタランチュラベストの耐久+15はあまりにも低い。ステータスポイント的にはどちらがお得か考えるべきだけど、さてはてどうしようか。私はむむむと悩みこんだ。


「決めました。やはりタランチュラベストをください」


 私は意を決してタランチュラベストを選択した。

 第二エリアのボスというのがどれほどの強さかわからないけど、ジャイアントボアより弱いということはないだろう。

 それとダークエルフが着るにはプレートメイルは視界が狭過ぎた。

 本を読むときに邪魔になりそうだと考えたら実質一択しかなかった。

 お店の人の言う事は尤もだったのである。


「おう、お嬢ちゃんお目が高いね!」


「ではこれで」


「おう、ぴったり頂いたぜ。俺も良い商売が出来て良かったわ」


 そう言ってオットーさんはその場で店をたたみ始めた。

 まだ商品があるのに、どうしてだろう?


「お店、閉めちゃうんですか?」


「ああ。実は今日は知り合いを迎えに来ていてな? 本当は店を開くつもりもなかったんだが、あの野郎、時間になっても現れなくて暇を持て余してたんだ。そこへ偶然通り掛かったのが嬢ちゃんでさ」


 なるほど。道理で他のお店に比べて凄い商品を扱ってたわけだ。

 でも暇だったらどうしてお店を畳むの?

 考えるまでもないか、待ち人が来たんだ。


「なら私はラッキーだったんですね」


「だな」


 オットーさんはニコニコ笑いながら「じゃあ俺こっちだから」とその場で別れる。

 不思議な人だったなぁ。

 また会えるかな?

 そんな風に思いながら私は次のクエストに取りかかることにした。


 どんとこい、ビッグボア!


 ──────────────────

 プレイヤーネーム:マール

 種族:ダークエルフ

 種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%


 冒険者ランク:F

 LV:5/10

 依頼達成回数:1回

 称号:ーー

 資金:740G


 生命:50

 魔力:50

 

 筋力:100

 耐久:0+[+15]

 知力:0+[+1]

 精神:0+[+11]

 器用:0

 敏捷:0

 幸運:0

 割り振り可能ステータスポイント:8


 武器:初心者の本★[知力、精神+1]

 体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]

 体下:初心者のスカート

 頭部:なし

 装飾:なし

 装飾:なし


 ◼️戦闘スタイル【ダークエルフ】

 <物理:素手>苦手:威力20%ダウン

 気合の咆哮

 ジャストカウンター


 <魔法:杖>得意:威力10%アップ

 なし


 <補助:本>

 なし


 <召喚:オーブ>

 なし

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