18話「扉を開けて」





僕の家に雄一が泊まりに来てから、僕たちは一週間ほども一緒に生活していた。


「雄一」


「稔」


そうやって名前を呼び合って、何よりも愛しい時間を過ごす。


僕たちはもう距離の近さに戸惑ったり、キスをすることに恥じらったりせず、愛による采配でそれらはすべて作り変えられていった。


もし日々がそのまま変わらなかったとしたら、心臓がときめきに耐えきれず、二人とも死んでしまっていただろう。


逃げ込んで見つけた小さな部屋の中で、求め合い、奪い合ったのに、僕たちは何も失わなかった。









日曜日のテレビ番組。それは、翌日が月曜日であることを報せるようなものでもある。


僕は一週間も彼を独り占めし、彼も同じようにしてくれていた。


テレビのアナウンサーは、「明日から月曜日ですね!明日は曇りですが、花粉が多くなっております、皆さまご注意を!」と、やたらめったら明るい声で喋っている。


僕はその時、愛しさに揉まれながらも不安に思っていたことを、彼に伝えようと思った。


「ねえ、雄一」


雄一はその時、背の低いテーブルの前で、夕食のカップラーメンをすすっていた。


「うん?」


麺を口にくわえたまま、目だけで僕を見る姿が可愛らしい。


ちゅるるっと吸い込んでしまってからラーメンを飲み下して、雄一は僕を見る。彼の表情はとても穏やかだった。


それが崩れることをしたいわけじゃないけど。


“わかってくれるかな”


「僕たちさ、二人で、学校頑張ろうよ」


“わかってほしい。僕だって君が心配だもの”


雄一はラーメンのカップを置いて、がしがしと頭をかく。


「一緒に行こうよ。そうすればきっと…」


どうしても気後れしてしまったけど、僕はもう“機嫌を損なったらどうしよう”とは思わなかったから、彼を見つめていられた。



僕は、父さんに頼んで、一年の留年を許してもらおうと思っていた。


雄一も同じことをしないと多分学校には行けないけど、二人で勇気を出して、一緒に乗り越えたい。


数日間愛に満たされて気づいたこと。


“彼が奪われることがなければ、なんでもできる”


雄一にもそう思って欲しかった。



しばらく気まずそうに彼は横を向いていたけど、一つ大きく息を吐くと、「しょうがねえな」とつぶやいた。僕はそれを聴き、胸が高鳴る。


顔を上げた彼は、照れ笑いをしながらこう言った。


「今度実家帰るわ。そんとき、親父に話してみる」










「それじゃあ、これ合鍵」


「おう」


朝日の中で、僕たちは元通り制服に身を包んで、鞄を手に提げている。


眩しい陽の光の中で笑っている雄一。


「じゃあ今日は学校から、家に向かうということで」


そう言ってちょっと笑ってみると、彼は「わかった」と言って踵を翻し、僕の前を歩き出した。




学校に着いた時、僕はちょっと恥ずかしかった。


誰も僕たちの関係に気づいているはずはないのに、自分の目が雄一しか見ていないことを悟られてしまうんじゃないか、彼の匂いが体に染み付いているんじゃないかと思って、誰とも目を合わせられなかった。


でも、恋する人とこんなに近くにいつも居られることが嬉しくて仕方なくて、授業も頑張れたし、分からないところの復習も休み時間にできた。


“君がいるから”


そんな誰でも思いつく言葉でしか言い表せないのは歯がゆいのに、前のように、ありふれたつまらない言葉だなんて思わなかった。


雄一も珍しく休み時間に教科書を開いていたみたいで、少し前の彼の席に目をやると、いらいらと長い前髪をかき分けているらしい後ろ姿が見えて、嬉しかった。








「じゃあ、頑張ろう」


「おうよ」


僕たちはそう言って校門の前で別れ、自分たちの実家目指して、帰ることにした。





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