15話「初めての嘘」





それは突然のことだった。


「なあ…俺たち、もう会わないことにしようぜ」


「えっ…どうして…?」


その日はいつもの通りに雄一の部屋に上がったけど、彼はあまり僕を見ず、前日までのキスも何もかもが嘘だったかのように、僕に触れてもくれなかった。


そしてそのまま、唐突に別れ話なんか始めたんだ。




「学校でも話しかけんなよ。もう帰れ。ここには来るな」


僕が精一杯動揺して、顔を覗き込もうとしてさえ、雄一は僕の視線を避けた。


「や、やだ…どうして?」


彼は、何も言ってくれない。夕焼けに照らされた顔は憂鬱そうで、暗い瞳の向こうが僕には見えない。


「ねえ、なんでそんなこと言い出したの?僕、何か言っちゃった?雄一の嫌がること…」


そう言うと、雄一はきっと僕を睨みつけ、怒鳴った。


「うるせえな…帰れ!」


「やだ…」


いつの間にか泣きながら僕が首を振ると、雄一は頭をがしがしとかいてから、僕を指さし、叫び始めた。


「じゃあ言ってやるよ!お前やっぱりうぜえんだよ!ちょっと機嫌取っただけで「恋人だ」なんて勘違いしやがって!邪魔なんだよ!」


“そんなことを君が言うなんて思わなかった”


僕は深く傷つけられ、もう平静を保っていられなかった。


だから君に、あんなことを言ってしまったんだ。


「…帰る…」


僕は立ち上がり、座り込んだまま顔をあげない雄一目がけて、思いっ切りこうぶつけた。


「ああ、帰るよ!そんなふうに言われてまで、君にしがみつくのなんか、情けないだけからね!どうぞご勝手に!」




外に出てから走り続けていた僕は、自分の涙を拭うのがやっとだった。


“どうして…!どうして…!?”








雄一から一方的に別れを迫られて、もう二週間になる。


彼はほとんど学校に来ないし、来ても全身が傷だらけで、すぐに職員室に呼ばれて、他校の生徒との喧嘩沙汰を起こしたことを叱られているようだった。


彼はなぜか、追い詰められているような顔を学校でやめないし、毎日喧嘩に明け暮れているみたいだ。


“どうして急にそんなふうになっちゃったんだろう…ああ、傷が痛そう…”


そう思いながら雄一を見つめていても、彼は振り向いてもくれなかった。


“いいや、心配なんかするもんか。僕にはもう、関係ない…”









それは、僕がスーパーにお菓子を買いに行った時のことだった。


家を出てスーパーに向かう途中には、大きなパチンコ店がある。


“雄一が居たり…しないよね”


ちょっとだけ気になって店の入り口を覗こうとした時、どこからか、何かを盛んにぶつけるような鈍い音が聴こえてきた。


“なんの音…?”


音のする方へ近寄ってパチンコ店の駐車場に入ると、数人の男子高校生の喧嘩を見てしまった。


彼らはこちらに気づいて振り返ることはなかったから、僕は彼らの向こう、壁際に追い詰められて殴られている人物を見つめた。


「ゆ、雄一…!」


それはやっぱり彼だった。


男子高校生たちは五人、彼はたった一人で、すでに一方的に痛めつけられているだけだ。


「やだ…雄一…!」


僕は無我夢中で走り始め、涙で滲む視界を拭いながら、彼らの間に割って入った。


「なんだ!?お前!」


「おい!邪魔だよ!」


僕はそんな言葉は聞かないで、地面に倒されてしまっていた雄一に覆いかぶさり、隙間なく抱きしめた。


「なんだよ、オトモダチが助けに来てくれたみたいだな」


「良かったじゃねえか。まあ同じ目に遭うだけだけど!」


「稔…お前、ダメだ!早くどけ!」


僕が現れた途端、雄一は慌てて僕をどかそうとしたけど、もう力が出せなくなっていた彼は、そうすることができなかった。


僕の背中は、彼ら五人にあらん限りの力で踏みつけられ、雄一が一緒に踏まれないようにと、僕は地面に手を突っ張った。


雄一は真っ青になったあとで、烈火の如く怒り出す。


「お前…どけ!やめろ!お前ら、やめろよ!」


「動かないで雄一!動いたら当たっちゃう!」


「ふざけんな!」




そこから怒りに任せて不良たちを一気に蹴り飛ばして殴り倒した雄一は、蹲っていた僕のところへ戻ってくると、僕を抱きしめて泣いた。


「稔…どうしてだ…」


涙をしとどに流し、しゃくり上げてむせ込みながら、雄一は何回も、「どうして」とだけ繰り返した。





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