第37話 二刀の模索

 ランドにはしばらく同じ動きを練習させた。動きを早くする必要はなく、正しい姿勢で剣を振ることが大事だと言い聞かせた。冒険者の剣であっても、基本はしっかりと踏み込み、踏み込む時の力を利用して体重を乗せる、もしくは遠心力を利用するなどして、しっかりと剣身に力を伝える必要があるのだ。もちろん手の動きだけで切り裂くようなこともすることはあるが、それはまた別の技術だ。技術を身に着けないものが中途半端に真似をしても、ほとんどの場合意味がない。それが有効になるのは、体表が柔らかく切り裂きやすいか、とんでもなく切れ味の良い剣を持っている時くらいだ。

 これはすべて受け売りだった。しかし、幸か不幸か、ルークスは三年の間にそれを実体験することで、ただの受け売りだったものが実を伴ったものへと変わった。何度も痛い目に会うことで、師事した男の言葉が正しいものだったのだと改めて腹落ちしたのだ。


「よし、それくらいで良いだろう」


 ランドの動きが大きく乱れ、緩慢になってきたところで止めた。息は多少あがっているようだが、それよりも特に腕の疲労が強いようだった。足は意外としっかりしている。剣を杖のように突いてはいるが、座り込んだりせずに立ったままだ。


「まだまだ剣に振られているな。木剣でそれだと、実際の剣を持ったら振り回されるどころじゃすまないだろうな」

「おおきくならないとだめかなぁ?」


 大きく、というのは、身体が大きくという意味もそうだろうが、年齢を重ねるという意味だろう。


「もちろん大人になったり、身体が出来上がればそれだけでかなり楽に剣を振ることはできるだろうな。ただ、子供のうちでも、軽いものならば問題なくできるぞ」

「できるようになるのかな?」

「ああ。どのくらいでそうなるのかはわからないけどな。それでも、その重さならば自然と慣れるだろう」

「じゃあ、もっとがんばる」

「毎日やることだな。ただ、今日は一度休憩だ。腕に力が入っていないし、身体も流れるようになってきているからな。正しい姿勢で剣を振る練習をしなければ意味が無い」

「わかった!」

「ちなみに、なんで腕に力が入っていない状態で練習したらダメかわかるか?」

「うーん。なんでだろう?」

「時間はあるから、ちょっと考えてみてくれ」


 そうランドに伝えて、その間、今度はルークスが剣の練習を行った。基本の型に沿ったやり方で足を動かし、剣を振る。剣と言っても、長剣は預けてある。代わりに鉈を両手で持って振っているが、改めて両手では持ちにくい。多少の重さはあるものの、片手で扱える程度の刃渡りの刃物だ。柄もそれに合わせて短く、両手で持ち続けるのは難しい。四つ手との戦いでは、柄を握る右手を下から支えるように、包み込むような形にして両手で保持していた。このやり方では、一撃を強く叩き込むならまだしも、連撃をするには厳しい。仕方なく片手で持って、踏み込み、剣を上段から振り下ろす。そして踏み込み、手首を返して切り上げる。片手剣の扱いは日常的にしているわけではないが、やったことがないわけではなかった。


 いくつか型をやってみたが、空いている片手が手持ち無沙汰だった。盾を使えるように練習するのも悪くないかもしれない。しかし、今はその盾自体をまずは調達してこなければならない。

 四つ手との戦いの練習時のように、右手で鉈を、左手ではナイフというやり方も良いはずだ。元々、二刀流のやり方や型などは学んでいない。あれは、手数を増やしたいのと、懐に入られた時のための苦肉の策だった。


 もし、あの戦い方をするならば。四つ手とのやり取りを思い返しながら、片手剣の型の練習をする。左手のナイフは、盾のような感覚で使う。順手で持ったり、逆手で持ったりしながら、改めてしっくりくるやり方をさがしていく。ナイフで攻撃する回数を増やしてみる。左右の武器の長さが違うため、ナイフで攻撃しようと思うと上手い位置取りが見つからない。

 しばらく動きを試していたところで、ランドから声がかかった。集中していたようだ。


「おじさん、すごい」

「すまん。少し動きの確認をしていた」

「りょうてでもつやりかたもあるんだね」

「ああ。今はいつも使っている長剣を修理に出しているんだ。この鉈で戦うこともあるから、練習しておこうと思ってな」


 両手で、しかも鉈とナイフという、あまり見かけたことがないやり方に興味を持っているようだった。


「それで、考えたのか?」


 じっと鉈を見つめているランドを促した。


「あ。うん。えっとね、ちからがぬけていると、けんにふりまわされてころんじゃうから? あと、へんなやりかたでおぼえちゃうから?」

「なかなかいいところまで考えているな。あとは、力が無くなっている状態で腕を伸ばしきったら肘を痛めるし、転んだり、なんなら剣がすっぽ抜けて物や人に当たったりする可能性もある」

「そっか。そうだよね」

「だから、まずはしっかり剣を振れるようになるまで、慣れていくんだ。あとは、そうだな。腕が疲れて剣を振れなくなったら、棒切れでも適当な枝でも良いからそれを持って今度は足の運びに集中しながら振る練習をしてみると良い」

「わかった!」

「今日は、そうだな。何か適当な棒切れを探して、足の練習をやってみるか」

「いえでさがしてきていい?」

「ああ。良いぞ、行ってこい」


 そう言うやいなや、ランドは自宅に駆けていった。まだまだ元気が有り余っているようだった。

 ランドの姿が家の中に消えたころ、ルークスは改めてこの二本のを使った戦い方を模索するために、型の練習に取り掛かった。

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