第4話 本当の願い事
綾子と清彦は広瀬川の土手に並んで座って、花火を見た。
土手には、恋人達や家族連れ、老夫婦……人々が寄り添って、同じように空を見上げていた。
等間隔で打ち上がっては散っていく光の花びらを眺めながら、清彦は口を開いた。
「牧場を、継ごうかと思ってる」
「本当?」
綾子が言うと、清彦は静かにうなずいた。
「将来的には、宮瀬牧場を観光化しようと思うんだ。ロッジを建てて、宿泊施設を整えて、独自の商品を開発して……ヨーグルトとか、チーズとか。もちろん、まだ親父には反対されてるけれど、長い時間をかけて説得するつもりだよ。きっとうまくいく気がするんだ。そのためにも、とりあえずは、今自分が出来る精一杯のこと、大学での勉強を頑張ろうと思う」
清彦は真っ直ぐに綾子の目を見た。
綾子はうなずいて、微笑んだ。
「私はね、親方のように、着る人のことを本当に考えた着物を作れるような職人になりたい」
綾子は自分の帯を愛しそうに撫でて言った。
「そしていつか……これは本当にいつになるか分からないけれど、いつか心の底から『これは自分にしか作れない作品だ』って言えるようなものを作れるようになったら、今日見た展示会のような立派な場所に、自分の作品を出せるようになりたい。自分の着物が、色んな人の目に触れて、知ってもらえるようになる……それって、すごく素敵なことだと思うから」
まだ花火が上がった。今までのとは違って、枝垂れのような花火だった。
それを合図にして、清彦は確かな口調で言った。
「うん。綾子になら、出来るよ」
湧き上がった光の穂は一面に広がって、やがて川面へと消えて行った。
清彦は残像を慈しむかのように夜空を見やりながら、短冊に書いた本当の願い事を反芻していた。
『来年も、再来年も、その先もずっと、二人で七夕祭りに来られますように』
(了)
☆☆☆
お読みいただきありがとうございました。
最後に後書きがございます。
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