第5話 牧場の今

「チェールーシー!」

 チェルシーの牛舎は一番手前の赤い屋根のそれだ。

 ンモ~と鳴いて、あさみの方を見る。

 こげ茶の毛は固いけれどなめらかで、さわると気持ちがいい。チェルシーの体温が伝わってくる。

「ひさしぶりだね」

 あさみはチェルシーに話しかけながらなでてやる。優しい目は、元気だった? と語りかけているような気がした。


「あのねチェルシー、あさみたち、似た者同士だったんだよ。三代目だったの。初代はね、おじいちゃんの恋人だったんだよ。あなたはその孫。分かる?」

 チェルシーは分かっているのか分かっていないのか、ただ草をんでいるだけだ。しっぽでハエをバチンバチンと追い払っている。あさみはそのまましばらく見ていた。


 それからポニーのマリーのところにも行った。たくさんの人が順番を待っていたので、あさみは声をかけることができなかったが、それでも心の中であいさつした。

 マリーちゃん、元気? またくるね、そう言うと、遠くにいるマリーがこちらを向いたような気がした。

 鶏舎のニワトリにはまたヒヨコが生まれたらしく、あちこちでピピピという鳴き声が聞こえている。


「さ、そろそろ帰ろうかね」

 清彦がビニール袋を手に戻ってきた。

「え~、もう少しいたい」

「明日も学校だろう。遅くなったらいけないから、帰ろう」

「え~やだぁ」

 まだ会っていない動物がたくさんいるのだ。あいさつをしなければ、とあさみは思った。

「ほら、これ、おみやげだよ」

「ありがとう。なぁに?」

 袋の中を見ると、飲むヨーグルトのボトルがたくさん入っている。

「来月発売する新製品なんだよ。新発売のオレンジ味とピーチ味が入ってるぞ」

 見ると、宮瀬牧場のロゴマークの入ったオレンジ色とピンク色のボトルが何本も並んでいた。あさみがいつも飲んでいるプレーン味もある。

「ほんとだ、これまだジャパコで見たことないよ。すごい」

 おみやげをもらい、それにお腹もすいてきたので、あさみはここは大人しく帰ることにした。

 今日はめいっぱい楽しい思いをしたのだ。もう十分だ。

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