第5話 清彦の身の丈

「二日町~。二日町~」

 いつの間にか電車は乗り換えの駅に到着していた。

 感傷にふけっていた清彦は慌てて電車を降りた。


 あの時の綾子の笑顔が、忘れられない。

 今までで一番綺麗で、強かった。

 きっと、今彼女は夢に向かって一心不乱に努力していることだろう。揺るぎない気持ちを持って。

 それに比べて、俺は……。


 清彦は気持ちを切り替えるように大きく首を回した。骨の鳴る音がした。

 あの頃の自分の甘さが身に沁みるようだ。

 結局、東京に出なくてよかったのかもしれない。

 中途半端な気持ちで東京に行っても、主体性の無い自分のことだ、飲み込まれてしまうに決まっている。

 大人しく、親父の言う通りにこっちの大学へ進学して、将来の牧場経営に備えて農業を学ぶ。

 それがきっと、身の丈に合った道なのだ。


 清彦はゆるやかな足取りで歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る