第38話 黒戸 紅と緑山 雫の本当に苦しい事

黒戸 白が復帰し、骨川 糞夫と対立する時からさかのぼること三十分前、ここは東桜台高校の校舎裏、黒戸くろと くれない緑山みどりやま しずく、さらに我が白愛会はくあいかいの隠密部隊五人が集まっていた。


「今日集まってもらったのはある情報筋から、久須くす 竜也たつや骨川ほねかわ 糞夫くそおが繋がっている事が噂されているわ、正確には骨川の組織の下部組織「ブラックボーン』に在籍していたのがその久須らしいの」

白愛会会長である紅が皆に集まった理由を話し出した。


「そこで骨川の糞野郎が、白君に対し報復手段に出ると思われるの、それで皆様には白君に気づかれないよう、白君を襲撃しようとする骨川の手下共を半殺しにしてもらいたいのが今回集まってもらった理由よ」

雫は紅の話を補足して続きを集まった皆んなに話した。


「私と雫は先にお兄ちゃんの教室に潜入し、骨川 糞夫の動向を観察し、記録する……皆んなには悪いのだけれど、今回の作戦において……お兄ちゃんを……白を助ける事が最優先事項でわない事を伝えておかなければならない」

紅は歯を食いしばりながら、白に残酷な対応をしなければならない事を悔しながらも、皆に伝えた。


「何故です!? 白さんを見捨てると言う事ですか!」

隠密部隊リーダーで桜野中学校二年、綺麗なコバルトブルーの髪を後でお団子で束ね、Bカップでちょっと貧乳なスレンダーな渋谷しぶや りんが紅に不服を申し立てる。


「ごめんなさい凛……あなたの白お兄ちゃんの事を大切に想ってくれている事は分かっているわ、私も出来ればこんな事をしたくない……でも今回は骨川財閥を全てほろぼす事に注力してもらいたい……」

紅本人が一番辛い決断だろう、雫もこれには不服はあった、目の前で白が痛められるのをただただ見過ごせと言うのだ……雫も他の白愛会会員も皆、拳を握り悔しそうにただただうなずいた。


「さぁもうそろそろお兄ちゃんの登校する時間、みんなの言いたい事は十分に分かってるつもりよ、だから、だから愚痴なら後でいくらでも聞くわ、まずは皆んなの無事と健闘を祈って……行くわよ、作戦決行よ!」

「「はい!」」

紅の作戦決行の合図と共に皆がそれに反応し、それぞれの任務へと拡散した。


紅と雫は一緒に、白の教室に向かうため、白の教室に繋がる空調ダクトに潜り込み教室を目指す。


「雫、遅いわよもっと早く進めないの?」

紅はノロノロと進む雫に激を飛ばす。


「すいません会長、会長の様に貧乳じゃないため、Dカップある私の胸が邪魔してなかなか前に進み辛いものですから、色々な意味で申し訳ないです」

雫は紅に進みが遅い理由を丁寧に話した。


「あん! 一生そこで詰まってろデカ乳」

紅は急に怒り出しどんどん先に進む。


「待ってくださいよ〜貧乳……あっ、間違えた、会長〜」

雫は勝ち誇った表情を浮かべて少しずつ先に進んだ。


「あんた作戦終わったら覚えておきなさいよ!」

紅は後ろを振り向き雫を睨みつけながら吐き捨てる。


しばらく紅と雫は口喧嘩しながら白の教室の天井裏目指して進んで行くと遠くから物凄い音が響き渡たる、音から察するに机や椅子がなぎ倒される音だろう。


「な、何!? 急ぐわよ雫!」

「はい!」

紅と雫は先ほどとは打って変わり、二人とも無言でその音がした方向へ必死に進む。


しばらくして白のいる教室の天井裏へと辿り着き、換気用のダクトの隙間から二人は教室を覗き込む、骨川が叫び白は崩れた机や椅子の上に倒れ鼻血出している光景が見てとれた。


「あ、あの、糞野郎がーー!!」

雫はその光景を見るや怒りの沸点が上昇、瞬間で理性が吹っ飛びダクトから飛び降り骨川 糞夫をぶち殺さんとしそうだった。


「だ、駄目よ! 雫……我慢して、今はこらえて」

紅は雫の襟を掴み、飛び出そうとしたのを制止する。


「な、なぜ紅ちゃん、あ、あいつは白君に……」

雫がそう言いかけると、紅も口を噛み締め、血が口から垂れるほど我慢してるのが見えた。


「ご、ごめん紅会長……」

雫は感情の高鳴りはまだ煮えたぎってはいたが、雫以上に腹が煮えくり返っているだろう紅を思い感情を抑え謝った。


「ごめんね雫、あなたのお兄ちゃんへの思いはとても嬉しいわ、貴方がそばに居てくれるから私もこの感情を抑えていられる。 今あいつをぶち殺すのは簡単よ、でも……でもあいつ一人をやった所で今度はあいつの仲間がお兄ちゃんにちょっかいを出してくるわ、それじゃダメ……それじゃ私の怒りは収まらない……あいつだけじゃない、あいつに味方した家族、親友、友達、関係者を全員血祭りにあげなければ私の気持ちは収まらない」

紅は淡々と感情を抑えながら喋ってはいるが、目は怒りで真っ赤に血走っていた。


「はい、同感です会長」

雫も紅の気持ちに同調し、改めてダクト下を覗き込む。


すると「グハァ!」と叫びながら糞夫が机や椅子を薙ぎ倒しながらぶっ倒れていた。


「ふ、ふざけないで! 黒戸は……白は、ストーカーなんかじゃない! ! 白は私の……私の大切な……大切な人なんだから……うぅ」

美希が白を庇いながら糞夫をぶっ飛ばしていた。


「み、美希ちゃん……」

雫はその光景を見ると目に涙をにじませ、ずーっと取れずに引っかかっていた小さなとげが雫の心から取れた様な気がした。


(私が美希ちゃんにした事は決して許されたわけじゃないかもしれない……けど、美希ちゃんが本当に小さな一歩だけど、とても大きな一歩を自ら進んでくれた……ごめん、ありがとう美希ちゃん)

雫は美希の行動に深々と頭を下げ、謝罪と感謝を込めた。


「やるわね美希ちゃん……お兄ちゃんを思う気持ちは雫、あなた以上なんじゃないフッフッ」

紅は美希ちゃんを褒めながら、雫を挑発する様に笑う。


「紅、私やっぱりあの糞野郎を今すぐぶち殺してきます!」

雫は美希への対抗心からダクトから降りようとする。


「わぁー!? ば、馬鹿! 冗談よ冗談」

紅は雫を慌てて止めた。


その後、殴られた糞夫はすぐ立ち上がると美希に殴りかかり、それを止めに入った礼子も殴り倒すと、顔を踏みながら痛ぶる、紅と雫はお互い感情を抑えるのも限界にきていた。


「く、紅……私はもう我慢の限界です、白君の大切なものを痛ぶられるのを見てるだけなんて我慢できないかも……」

雫は紅に訴えかけると。


「あ、あの糞野郎が! 糞が! 糞が!」

紅もまた普段は美希や礼子の事を悪く言っているが、我々同様に白を想い好きでいてくれる彼女達二人もまた紅にとっては大切な人なのだろう、さっきまでの冷静さはどこへ行ったのか、紅もまた我慢の限界がきている様だった。


紅と雫はダクトの格子状の扉を開け、糞夫をぶち殺そうとした、その瞬間とてつもない戦慄な殺意と恐怖が紅と雫を襲った、あまりの恐怖に二人は下に降りられずその場で固まってしまう。


苦行とも呼べる修行を積み、相当強くなったと自負する紅と雫だったが、こんな恐怖は初めてだった、紅と雫は足がすくみその場を動く事も出来ず、その背筋の凍る様なこの恐怖の原因のみなもとを調べようと教室を見下みおろす。


ボキ! ボキ! と物凄い音、人の骨が砕かれる音が辺り一帯に響き渡る。


「えっ!? な、なに! お、お兄ちゃん……?」

「な、なんですこの凄まじい衝撃は!?」

驚いた紅と雫は急いでその音のする方向を見る、白が糞夫の横腹目掛けてボディーブローをエグい角度からめり込ませていた。


糞夫は悶絶もんぜつし、床でうめき叫ぶ。


その光景を見た紅と雫はその場を動く事が出来ず固まってしまう。


その、糞夫をやった白は次に骨川の男子グループ連中の足の骨を砕き全員を動けなくすると、更に女子グループに近づき何かを話し壁ドンをしたと思えば彼女達は恐怖で震え糞尿を垂れ流し教室を後に消える、教室はまるで地獄絵図の様な阿鼻叫喚あびきょうかんで泣き叫び、苦痛でうめき散らし、辺りは血と糞尿の臭いが立ち込め、紅と雫はただただそんな白を見守るほかなかった。


そして白は最後の一人となった骨川ほねかわ 糞夫くそおと再び対峙する。


その様子はさっきまでただただ虐めていた奴に対しての粛清しゅくせいの様ないましめとは違い、白が誰かの為に自ら犠牲になり、今までの紅と雫、美希の苦しみを一身に背負い目の前にいる全ての根源を叩き、壊し、終わらせようとするそんな表情をしている様に見えた。


「ま、待て……分かった謝る、謝るから、頼むから見逃して……」

泣き叫び命乞いをする糞夫。


「これは今まで美希におこなってきた分だ……」

白は悲しい顔をして美希の為に骨川を痛めつけ、でもそこには何の感情もなく、とても虚しい表情で糞夫を見つめる。


「もう、勘弁してください! 助けてくだ……ぐわあ!!」

糞夫は涙を流し助けを求めるが。


「これは礼子の分だ……」

次に礼子の為にと感情が欠けた様な表情で白は非情に淡々と糞夫を苦しめる。


雫はだんだん辛くなってくる、糞夫が痛めつけられてるからでわない、白の心がどんどん壊れていく気がしてならないからだ。


「もうやめて……やめてほしい、白君がこんな事する必要はないよ……」

雫は空調ダクトの上でその光景を、白には届かない声をつぶやきながら涙目で見つめる他なかった。


紅もまた同様に。

「だ、駄目……駄目だよ……お兄ちゃんがそんな事をする必要はない、そんな事したらお兄ちゃんが……お兄ちゃんが壊れちゃうよ」

涙を流しながら一人つぶやき、体を震わせて見つめる他なかった。


「なぁ骨川、雫ちゃん……緑山 雫ちゃんを覚えてるか? あの子が泣きながらやめてと言った時、お前はやめてあげたのか……」

今度は雫の為に白が糞夫を痛めつける。


「も、もう……もういいから、私なんかの為に白君が壊れていくほうが私は辛いよ……」

雫は胸を鷲掴みされてる様な息苦しさを感じ、本来なら嬉しいはずなのに、自分の為にどんどん精神的に傷ついていく白を見ているだけで苦しくて悲しくてどうにかなってしまいそうだった。


「紅……俺の大切な妹が、小学校入りたての妹が何も知らないで虐められた時、お前は……お前はどう思っていたんだ?」

そして紅の為に白は糞夫の顔面を床に何度も何度も叩きつける。


気絶した骨川を白は、何の感情も抱かず眺め、喜びも悲しみもない表情でただ蹴り上げ、とても虚しくその場で沈黙していた。


「駄目だよそんなの、お兄ちゃんがそんな奴のために心を痛める必要はないよ……私が一番辛いのはお兄ちゃんが幸せになれない事なんだから……」

紅はその光景を辛そうに見つめる。


(紅ちゃんは以前教えてくれた事がある、白君が紅ちゃんの為に辛く苦しい思いをした事があるって、だから紅ちゃんはもう二度と白君に同じ辛い思いをさせたくない、幸せになってほしいって……でもこれじゃまた紅ちゃんが辛い思いするだけだし白君が幸せになれないよ……)

雫は白と紅を交互に見合いながらただただ辛そうな表情を浮かべる他なかった。


紅と雫はどこにもぶつけようのない怒りや悲しみを抱きながらただただ天井裏から見つめ泣きじゃくる。


そして教室に沈黙が流れて何分か経った頃だろう、この教室の担任が駆けつけ、その先生に付いてきていた赤毛の学校の制服をきた女性が入ってくるや瞬時に状況を判断しこう言い放った。


「はいみんな動かないで! 私は警視庁の刑事課の者よ、今から警察の捜査班を呼ぶから、警察の実況見分じっきょうけんぶんと目撃証言が済むまではこの場でとどまって待機して頂きます、ただ怪我をしている方は一緒にくる救護班の搬送後、回復しだい話を聞かせて頂くわ」

その赤毛の女子生徒はなぜか警察手帳を持ち現場を仕切る。


刑事と名乗る女性が現場を見渡していると、一人の男が突然、叫び声を上げた。


「け、刑事さん! そこに立っている男が、お、俺たちを殺そうとしてきたんです……た、助けて下さい」

それは骨川グループのまだ意識が残っていた屑の一人だった。


それを聞いた女性刑事は抜け殻の様に立っていた白に近づくと。


「ごめんなさいね、あなたを第一容疑者として逮捕するわ」

女性刑事はそう言い放つと、ポケットから手錠を取り出し白の両手に手錠を掛けた。


その瞬間、白は力尽きたかの様に目の前の女性にもたれかかる様に倒れ意識を失った。

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