不器用な僕の彼女達の助け方

第10話 白間 美希と少女の因縁

遠くの方でパトカーのサイレンが鳴り響（ひび）き、刻々と日が沈みゆく夕刻時（ゆうこくどき）、白間（しろま） 美希（みき）は俯（うつむ）きながら重い足取りを引きずり歩いていた。

久須（くす）　竜也（たつや）から逃げ、黒戸（くろと） 白（しろ）に救われ、私は彼の後ろ姿を見送ってから何時間が経っただろう。

親友の礼子（れいこ）に対して何も出来なかった無力感、白に……大好きな白にまた迷惑をかけてしまった罪悪感、そして久須に睨（にら）まれた時の恐怖感と色々な感情が私を覆（おお）い、家に向かう最中も体が震え涙が止まらなかった。

そんな憂鬱な感情を抱えて歩いているうちに家の近くまでもう辿り着いている事に気づき、ふと隣の家の黒戸家の玄関前に目をやると、そこに誰かが立ってこちらを見ているのが目に入った。

既（すで）に日も沈みかけて周辺も街灯で照らされてるとはいえ、薄暗（うすくら）いその玄関前に居たのが誰だかよく分からなかったが、こんな涙でぐちゃぐちゃな顔を近所の人に見せるわけにはいけないと涙を拭き取り、顔を伏（ふ）せながらその人影に軽く会釈をして自分の家の玄関を開け様とした時である。

「あら……美希さんじゃなくて？　こんばんわ」

黒戸家の玄関前にいた人影がこちらに向かって近づきながら話しかけてきた。

「えっ！？」

美希は自分の名前を呼ばれ驚きチラッと声をする方に顔を向ける、そこにはこちらに向かって歩いてくる綺麗な薄紫（うすむらさき）色のボブカットヘアーを揺らしながら、鋭い眼光の三白眼（さんぱくがん）を光らせ、服装は茶系のジャケットに白いロングスカートでカジュアルな雰囲気なのに気品があり、見た目は子供っぽいが漂うオーラはとても大人びていた女性がいた。

「んっ……？　あっ……！？ も、もしかして紅（あか）ちゃん？　そう、そうだよね？　その目、その髪色……」

美希は驚いた顔で問い返す。

「だ、誰があかちゃんよ！ く・れ・な・い、紅（くれない）よ……もう人の名前ぐらいちゃんと覚えなさいよ」

紅は呆れた顔で溜息をつく。

「ご、ごめん、つい昔の癖（くせ）で……」

美希は彼女を見た時に直ぐには彼女（くれない）とは思い出せなかったが、紅の特徴的な容姿と喋り方が美希の脳裏に残った記憶を蘇らせ思い出させた、彼女は黒戸　紅、白の実の妹で年齢は白や美希の一つ下の十五歳の中学三年生、昔はよく遊んだ幼馴染と言うやつだった、でも紅とは昔にある事がきっかけで疎遠になり、お互い距離を置きだんだんと会う機会が無くなっていた。

「お久（ひさ）しぶりです、何年くらい振（ぶり）ですかねお会いするのは？」

紅は軽いお辞儀（じぎ）をしながら、とても上品な口調と振舞（ふるまい）で美希に挨拶（あいさつ）を交（か）わした、しかしその顔は決して笑っておらず、寧（むし）ろ美希を睨（にら）み返してる感じだ。

「ところでお尋（たずね）したいのですが、白お兄ちゃんはまだ帰られていないのかしら？　もう帰宅してもおかしくない時間のはずなんですが……」

紅（くれない）は睨（にら）みながらも、目上である美希に丁寧に尋ねた。

「えっ！？ あっ……た、たぶん今晩は少し遅くなるんじゃないかな……たぶん」

美希は睨まれている事もあるが、とても動揺（どうよう）した口調で答えた。

紅（くれない）がなぜ美希を睨んでいるかは当人同士が理解し合っていたし、紅は美希を今はとても嫌（きら）っているからだ。

『今は……』と言う言葉を使ったのは、それは昔は二人とても仲良くそれこそ白、紅、美希で毎日遊ぶ仲だった、だが過去にあった一つの事件をきっかけにそれぞれの仲は脆（もろ）くも崩れた、その事件とは小学生2年生の頃に美希が言った一言が発端で始まり白や紅の人生を大きく狂わせる事になった、あの時から白や紅（くれない）とは近くて遠いそんな関係になってしまった。

「あの……紅（くれない）ちゃん……わ、私……ごめん！　ごめんなさい……本当にごめんなさい！　私のせいで……」

美希は過去の事を、紅にも謝らないといけない思いがこみ上げ、深く紅に頭を下げて謝罪した。

「美希さん……美希さん、突然謝られても困（こま）りますわ、私はただ白お兄ちゃんがどこにいらっしゃるか尋たずねただけですの？　仮に過去に何か謝らなくてはいけない事があろうと、私達に起きた事が消える事はないし、許す許さないの問題でもないの」

紅の口調はとても淡々（たんたん）としていてとても冷たく、美希を睨にらみながら放たれた。

「そ、それでも私は紅（くれない）ちゃんにも……ちゃんと、ちゃんと謝（あやま）らなきゃって、また昔みたいに一緒に三人で仲良くなりたいって思ってるから」

美希は涙痕（るいこん）がある情けない顔だったが、顔を上げて紅（くれない）に訴（うった）えかけた。

「『も』ってなんですの？　私に『も』って言い方だと、白お兄ちゃんにも謝ったって言い方に聞こえるのだけれど？　私としてはもう白お兄ちゃんに関わって欲しくないのが正直な感想ですが……三人仲良く？　どの口が言うのかしら」

紅（くれない）はとても不愉快（ふゆかい）そうな口調で、美希を馬鹿にするように答えた。

「し、白に謝ったていうかね……白から、こう両手で……私を抱きしめて『大丈夫、大丈夫、分かってるから』って抱きしめてくれたから……だから……」

美希は赤面（せきめん）しながら、先（さき）ほど白にされた行為を思い出しながら紅（くれない）に詳細に説明していると。

「あん！　抱きつかれた？　はぁ！？　私に対しての自慢かしらね美希さん？ よくもまぁ、平然と私のお兄ちゃんを弄（もてあそ）んでおいてぬけぬけと」

額に血管が浮き出るんじゃないかという形相（ぎょうそう）で紅（くれない）は睨みを強めていた。

「ち、違うんだよ紅（くれない）ちゃん！？　ほら白は優しいから、たぶん私を慰（なぐさ）めようと思って、こうぎゅーっと抱きしめて……ただ、そう！　私の事を思ってやった行動なだけなんだよ」

美希は手振り、身振りを交えながら、紅（くれない）のご機嫌を取ろうと誤解ないようにさらに詳しく話そうと頑張った。

「『想って』だぁぁ？　誰が誰を想ってだクソ女（あま）！　お、お兄ちゃんはわ、わ、私のものだ！！　バーカ、バーカ」

紅（くれない）はもう最初の頃の上品さは何処（どこ）へいったのか分からない発言を繰り出すようになってしまった。

そんな平行線なやり取りを繰り返してると、美希のスマホに一通のメールが届いた音が鳴り、紅（くれない）のスマホにも誰からかの着信が鳴り出した。

「ん……？　 あっ！　礼子からだ、無事だったのかな」

そんな事を言いながらメールの内容を見ると、美希は一瞬何が書いてるのか理解するのに数秒かかり、その場に腰から力が抜けると地面へと座るように崩れ落ち。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ！」

美希は涙を流しながら夜空に顔を上げ大きな叫び声をあげた。

メールには件名は無く、『美希どうしよう、あのね黒戸、うちの同じクラスの黒戸が助けにきてくれたんだけど、刺されて、何十箇所も刺されて、血が大量に、今桜ヶ丘中央病院に搬送中なんだけど、わたしどうしたら』と書かれていた。