シンフォレシア記 第二巻 序

 紀元後554年。それは、神話の鳥———『フェニックス』の姿が地球上で確認された最後の年だった。

 エジプトで儀式の準備を整えていたフェニックスは、数か月に渡って積み上げていた香木を悪辣な人間に荒らされ「これでは死ぬことが出来ない」と悲しみに明け暮れていた。

 その時通りかかった心優しい人間達はフェニックスが泣き喚く姿に心を痛め、エジプト中を駆け回り、僅か一日で香木をたくさん携えてフェニックスへと献上した。大いに喜んだフェニックスは悪辣な人間とはかけ離れた彼らに興味が湧き、宴を開いて身の上話をさせた。彼らの境遇は、フェニックスの憤慨に足るものであった。

 とある帝国の迫害から逃れるため彼らはバルカン半島から西へと渡ったものの、さらなる侵攻によって住む場所を失い、南へ逃げてきたという。そのような悲劇があってもあくまで献身的な彼らにフェニックスは感動し、願いを聞いた。

「誰も傷つかなくてもいい世界へ行きたい」

 フェニックスは願いを叶える代償に、自身を恒久に崇め奉ることを彼らに求めた。そうして盟友を契ったフェニックスと彼らは、エジプトから遠く離れた海上へと飛び立った。フェニックスは力の限りを尽くして炎を躍らせ島を作り上げ、何者にも邪魔されないように島の周囲を霧で閉ざした。

 彼らは約束を守り、島の北端にフェニックスを祭る最初の町を築いた———。

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