最終章 平和が一番だから

第1話 自爆まで2h


 ヴィーヴィーヴィーヴィーーーーーーー。

 

 けたたましく鳴り響く警報音。赤く明滅するライト。絵に描いたような緊急事態の風景だ。


『自爆装置が起動しました。総員二時間以内に半径三百キロメートル圏外に退避してください』


 繰り返されるアナウンスに、タキシードと眼帯の集団は元々ないようなものではあったが色を無くし、私物を両手に抱えて右往左往を始めた。その姿は石をめくった時によく見かける、慌てて卵を退避させる蟻のよう。全人類は子供のころ、戯れに大き目の石をひっくり返して歩いているはずなので、この表現で様子が伝わると思う。


「笹山、三百キロメートルってどれくらいの距離デス?」


 ビルの真下には、新規に借金をして購入したレストランのバンが到着しており、その前に笹山とジョンが茫然と建物を見上げて突っ立っていた。

 結婚式に来なくても良いと言われたジョンが、それでも姉の事が気になって気になって気になって、家に帰るなり禁断の赤い糸システムを起動させたのだ。ここにも違法に糸を結んでいるやつがいた。

 そして笹山ら居残り組からユウと烈人れつとの行方不明の話を聞き、姉の居場所とユウ達がいる場所の座標が重なっている事に気付き、車を走らせてここまで来た。何故姉の結婚式会場と、行方不明の二人の居場所が同じなのか。まさかユウと烈人れつとだけ呼ばれたのか!? と嫉妬にかられてここまで来たが、どうやらそうではないらしい。だいたいこの二人と姉との接点が皆目見当がつかない。ぎりぎり、姉の勤め先の学校の生徒である可能性があるが、それぐらいか。


 アナウンスを聞いて、ヒーローズの頭脳である笹山に、ジョンは退避すべき距離の位置を再度聞いた。茫然と口を開けていた彼も、ハッと我に返り返答する。


「直線距離で、東京からだと名古屋よりもっと西だな。伊勢がぎりぎり圏内で、彦根が圏外といったところか」

「全然わからナイ」

「とりあえず言えるのは、車での移動じゃその距離は逃げられない」

「ユウも姉さんもここにいるハズ、このままにしておけないデス」

「逃げるより、この自爆を止める方が確実だと自分は思う」


 笹山は眼鏡をクイっとあげると、ポケットに入れたセルジオに問う。


「こういう自爆装置は止められるだろうか」

「どんなものも解除の方法はある。二時間の猶予は脱出のため以外にも、解除の時間を取っていると考えるのが妥当だろうな」


 それを聞くと男は眼鏡を外し、シャツの裾で軽くぬぐうと颯爽とかけなおす。レンズをキラリと光らせ男はビルの正面玄関に足を向ける。


「ユウ、君を死なせはしない。この爆発は、自分が止めてみせよう」

「笹山だけに良い恰好はさせないデス!」


 一見すると美少女にしか見えない男は、長身の仲間の後に続いた。

 ここにいるはずの姉を救うためにも、この自爆は止めなければならないのだ。


* * *


「どうするユウ」


 赤い光に包まれ、若干烈人れつとが壁馴染みがよくなっており、うっかりすると混乱の中で見失いそうだ。保護色になってしまっている。アルフォンスも言わずもがな。だからこうやって向こうから話しかけてくれないと、何処にいるのかわからなくなる。

 ポイラッテは謎にテンションを上げてしまって、さきほどまでフワフワのファーがついた扇子を振り回しながら台座の上で踊っていた。


「どうするもこうするも、脱出は到底間に合わない。それならこの自爆を止めるのが手っ取り早いと思う。爆発の規模を考えると」

「それもそうか。ところでユウ、こんな時に聞く話じゃないと思うんだけど、お父さんって何してる人?」

「へ?」


 本当にこの緊急事態の状況で聞く事ではないような気がする。


「商社の営業マンをしてるはずだけど……」


 声が小さくなるのは、父が務めている会社の社名を知らず、名刺等を見せてもらった事もないからだ。商社の営業マンだと言いながら、多田家は忍者の家系だとか、父さんはヘリの操縦が出来るとか、嘘なのか本当なのかよくわからない発言の多い人だった。


「さっき、ユウに良く似たオッサンを見かけたんだ。多田博士って呼ばれてた。……もしお父さんなら、彼も助けた方がいいんじゃないかって」

「父さんが結社のアジトにいるはずなんてないけど、でも、うんわかった覚えておく」


 とにかくこの自爆を止める。すべてはそれからだ。烈人のおかげでもし父と似た人を見かけても動揺せずに受け止める事ができそうだ。

 

「ともかく彼女を探そう。幹部ならきっと止め方を知っているはず」


 まさかその彼女が「ポチっとな」をとしたとは知らず、ユウはメロリーナを探す事にした。この広い建物の中一人を探すのは至難のわざ。手分けをするしかない。


「メロリーナって、こういう感じの人だよな」


 赤い髪の少年は、胸の前で大きく輪郭をなぞるようなジェスチャー見せる。ユウは首を左右に振ると、更に大きくなぞる。


「もっとこんな感じだ」

「わかった、こんな感じだな」


 ボインっと更に大きい胸を大きさを表現をすると、黒い少年は頷く。


「そうだ、そんな感じのひとだ」


 この二人、女幹部を胸の大きさで認識しているのかと、赤い小鳥は思わないでもなかったが、ここでそれを突っ込んでしまっても仕方ない。気になるのはポイラッテがそのサイズ感にショックを受け、必死に寄せてあげてるところだろうか。寄せてあげてもオスのハムスターでは0は1にならない。恐らく頬袋にこんにゃくゼリーでも詰め込んだ方が理想的になるだろう。だがそれもこの危機を乗り越えてからの話だ。


「生きてふたたび会おう」


 厳かに野太い声でアルフォンスが宣言すると、その台詞が厨二心に刺さったユウは重々しく頷く。


 こうしてマジカルヒーロー全員がこの自爆を止めるべく、動きだしたのである。



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