第5話 戦慄の木曜日(中編)


 土埃で汚れないよう制服の上着を脱ぎ、ネクタイも取る。この近辺の学校はジャケットの色とネクタイの色で区別する同形状のブレザーなので、上着とネクタイがなければどこの学校かわからなくなるのだ。

 ワイシャツの襟も緩め、袖をまくりあげると、眼帯をしている事もあってなんとなくアウトロー感が出てユウの気分がものすごく上がった。


 とりあえず烈人れつとを探すべく、周囲を探索する。秋の夕暮れは早く、夜のとばりが降り始めてユウを焦らせるが、今回は暗くなりつつあることが幸いし、瓦礫の山の中で不自然な灯りの存在を彼に気付かせた。


 音を立てないように気を付けながら、オレンジ色の光の漏れる場所に近づくと、人の話し声が聞こえて来る。高めのお調子者感の声はナンパ系イケメンボイスで、低めのだみ声はモブでありながら主人公のピンチを救ったりするタイプのイケメンボイス。後者は慎重な性格なのか、このような事を言い出した。


「ヒョーガ兄貴、本当にこんなガキがムカデ三号を倒したのか?」

「遠目で赤い髪だったことしか確認できていないが、背格好的にはこんな感じだったよ」

「じゃあ一緒にいた丸いやつが評議会だったのか。見失ったのは痛いな」

「なあに、あいつらは地球人の力を借りないと何も出来ない雑魚。選ばれし地球人を潰してしまえば後はどうとでもなる。おそらく、しょうもない契約に縛られているだろうし」


 笑っているのか、細身で長身の男と背の低いゴリマッチョな男のシルエットが瓦礫に映る影を揺らす。


「とりあえず結社の重鎮でもあるメロリーナ様ならお分かりになられるから、我々はとりあえずここで彼女の到着を待てば良い」


――結社!?


 その単語にユウの体がビクリと反応してしまい、肩で触れた瓦礫の欠片がパラりと音をたてて地面に落ちてしまった。


「「誰だ!」」


 二人の男が同時に声をあげた。慌てて瓦礫から身を引いたユウの目に、地面に突っ伏して倒れる烈人れつとの姿が映る。

 縛られたりはしていない様子だが、うつ伏せで微動だにしていない。


――どうやって助けたら。


 大人二人を相手に太刀打ち出来るだろうか。いったん瓦礫に身を隠すが足音がどんどんこちらに近づいて来る。

 ここはやり過ごしたいと、身を隠す場所を探して彷徨ったユウの目に、風で飛んできたのかトイレットペーパーが入っていたらしい大きな段ボールが目に入る。咄嗟に箱を被るように中に滑りこむとほぼ同時に、二つの足音が砂利を踏む音が間近でした。


「……気のせいか」


 しばし立ち止まって周囲を伺う気配がしたが、足音は再び戻って行く。ユウは箱をかぶったまま、カサカサと移動を開始した。


「!」


 ゴリマッチョの方が違和感に神経をとがらせているのか、反応が早い。見た目的にはひょろい方が神経質に見えるが、人を見た目で判断してはいけない好例だ。ユウは箱の隙間から様子を伺いながら、じりじりと近づいて行く。

 緊張感のある”だるまさんが転んだ”を幾度となく繰り返した結果、なんとユウが入った段ボールは烈人れつとのすぐ隣に到達。

 忍者の血筋(自称)としての資質なのか、段ボール箱が持つ謎のアイテム性能なのか、とにかく見つからずに到達して見せたのだ。


 男二人がメロリーナという幹部の到着を気にして広場側に顔を向けている隙に、ユウはずりずりと烈人れつとの体を段ボールの中に引き込む。

 傍目から見ると、段ボールが少年をもしゃもしゃ食べているように見えるのだが、今はそれを見る目はなかった。トイレットペーパーの段ボールは大きく、細身の少年であれば二人が抱き合うような形であればなんとか収まる。

 ユウは烈人を後ろから抱えるようにしてそのまま息をひそめた。この体勢では外の様子を伺えないため、あとは運と段ボールの性能に任せる。


――信じてるぞ段ボール。おまえの実力ポテンシャルを……!


「あっ、ヒョーガ兄貴!」

「なんだゴーマ……むっ! ガキがいないじゃないか、いつの間に」


 ヒョロガリ男がヒョーガという名前。

 ゴリマッチョ男がゴーマ。覚えやすい。


「動けるはずがない。もしや仲間が他にいたのか?」


 振り返った二人が慌てふためく様子が、気配でユウに伝わって来る。


「ヒョーガ兄貴、俺はこっちを探す」

「おう、俺はあっちを」


 息ぴったりな様子の二人組の足音が遠ざかる。ほっと息を吐いたユウの吐息が、烈人れつとの耳元にダイレクトにかかり、かけられた少年はびくりとして目を覚ました。


「え、何? これどういう状……むぐ!?」


 烈人れつとが慌てた口調で声を出したので、ユウは冷静にその口をふさぐ。

 再び息をひそめて周囲の気配を探るが、あの二人が戻ってくる気配は感じなかったので、息苦しくなりはじめた箱を持ち上げて外す。

 新鮮な夜の空気が肺を満たし、再び大きく息を吐いて顔をあげたところでユウの動きは停止した。


 ユウ達からそう距離のない所に、もう一人がいたのだ。


 密着する少年二人が突然現れた事に面食らった様子の、豊かな胸を強調する悪役魔女のようなドレスをまとったセクシー体型、顔の上半分を覆う猫をモチーフにした仮面の金髪女が茫然と立ちすくんでいた。


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