女性客の来襲
カフェ「Maybe」の開店の準備を終わらせたマリアと悠太がカウンター席で、コーヒーの香りを燻らせて穏やかな時の流れを愉しんでいる。
「マスターって、厳選したコーヒー豆を毎朝丁寧に挽いているのに甘党なんですね?」
「人生は
「きっと祖母はそんなマスターの性格に癒されたんだ。私も大学で辛い事があり、一緒に働き始めて救われました」
「なるほど、マリアさんは運命に導かれて此処に来た?」
悠太はマリアの祖母がコーヒーの美味しいカフェがあると遺言を残した事を聞き、「Maybe」に訪れた日に店員が辞めた事と重ね合わせた。
そして悠太の視線がマリアの微笑みを越えてコーヒーカップを持つ手が宙で止まり、マリアも椅子を回転させて振り返って驚く。
女性たちがウインドーから店内を覗き、何事か囁き合って玄関口へ向かい、クローズの札を無視してドアを開けて入って来た。
『これも運命か?』
マリアは女性客の中に一人知っている女性がいると、白いフードとサングラスした子鹿みたいな可愛い子を足元から観察した。
「すいません。まだ開店前なんです。もう少しお待ちください」
七人の女性客はマスターの注意も気にせず店内に横一列に並び、前に一歩踏み出した若い女性がサングラスとパーカーのフードを外して悠太にペコっと頭を下げた。
「その節は突然辞めてしまってごめんなさい。でもマスター、今日は別の案件でやって来ました」
「き、君は……?」
悠太も以前雇っていた女性だと分かったが、一列に並ぶ女性たちの威圧感であたふたして言葉に詰り、マリアが代わって質問する。
「私の前にここで働いていた人ですよね?」
「はい。早坂怜奈です」
マリアはその一言で他の女性たちの視線が一斉に自分に向き、不穏な空気を店内に醸し出した事で、理由は不明だが『標的は私?』と身構えた。
「怜奈さん。何事なのでしょうか?オープン前に七人の女性客が来襲とは、只事ではありませんね?」
挑戦的な視線を送る女性客にマリアがカウンター席を立って睨むと、ニューヨーカーのスーツを着たキャリアガールが前に出て話し始めた。
「私は山崎貴子、27歳。ケンジが17の時の最初の彼女よ」
怜奈は貴子と入れ替わって一歩退き、悠太は『ケンジ』の名前を聞いて更に驚き、「まさか、溝端賢士くんの過去の恋人たち?」と呟いて気絶しそうになる。
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