恋の審査員

 怜奈はクローゼットから何着か洋服を出して床に並べ、下着姿になってチェック柄のワンピースやスーツ、フレアスカートやミニスカートを試着し、最終的にハイウエストのタックジーンズに白いパーカーを着て、クロエのサングラスを掛けて鏡に映す。


『可愛いスパイって感じで行こう』


 このミッションは恋愛対象として賢士にアピールする必要はなく、『理想の恋人』を選ぶ審査員の役割を果たす事である。



 数十分後、田園都市線青葉台駅のホームに下り電車が到着し、ホームに降りた立った数人の乗客が同じ方向へ流れて行くと、一際目立つ女性が忽然と現れた。


 スタジアムへ入場する選手の緊張感でアイコンタクトし、最後尾の者に合わせて人数を増やして隊列を組み、背筋を伸ばした美しい女性が4名、モデルのようなウォーキングで進み、追い越された人々が驚いて二度見する。


 その先頭でスタイリッシュなニューヨーカーのグレーのスーツを着て颯爽と歩くのが山崎貴子27歳。『恋のリベンジ』サイトの管理者であり、賢士にフラれた女たちのリーダーである。


 改札口付近の時計の針が8時45分を指し示し、丸柱に立つ怜奈がサングラスをして白いパーカーのフードを被り、ホームの階段から降りて来たメンバーに気付いて手を振る。


「貴子さーん。こっちです」


 他のメンバーも次の電車で駅に着くと連絡があり、怜奈は期待と緊張感と胸が熱くなり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、改札口を出て近付いて来る山崎貴子、荒井弓子、宮沢彩乃、中田亜美に丁寧に頭を下げて挨拶した。


「早坂怜奈です。サイトではいつもお世話になってます。今回はお忙しい中、集まっていただきありがとうございます」


「怜奈ちゃん。かしこまった挨拶はいいのよ。みんな悲しい想いをした仲間なんだからさ。気兼ねなく楽しみましょ」


 山崎貴子がそう言って怜奈にハグすると、他のメンバーも微笑んで次々とハグし、怜奈は肩の力が抜けてリラックスし、『私たちは恋仲間であり、世代や経験なんて関係なく、切なさと悲しみを共有する恋の戦士だ』と実感した。

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