理想の恋人
怜奈は去年のクリスマスに賢士と別れると、三日後に山崎貴子からコンタクトがあり、『恋のリベンジ』サイトに誘われて入会した。
「貴方が七人目になるわね」
「新しい恋人をマークしていたのですか?」
「そうね。変な感じがするでしょうけど、心のケア、救済活動なのよ。ケンジに対してもだけどさ」
怜奈は賢士の恋人として調査されていた事に憤慨したが、賢士が春に恋をして冬に別れる事を教えられ、女性たちの消せない恋の記憶と切ない想いに共感して仲間になった。
「鈴木悠太。スペシャリティーなコーヒーは美味しいが、カフェの経営は厳しいと思われるか?」
サイトのデータより青葉台にあるカフェのマスターが賢士の友人と知り、大学受験が終わるとカフェ『Maybe』で働き始めたが、単なる高校の同級生で賢士がカフェに来る事はなく、4月5日に突然辞めてしまった。
前日に『ケンジの理想の恋人は?』というテーマでサイト内で議論が行われ、その書き込みとカフェに現れた女性客を重ね合わせた怜奈は、居た堪れなくなり逃げ出したのである。
【恋のリベンジサイトより】
『ダヴィンチのモナ・リザのように慈しみのある微笑み。純粋で清楚な感じはあるけど、人間の怖さは知ってなきゃいけないわね……』
一人で訪れた女性客をウインドー側のテーブル席に案内した怜奈は書き込まれたコメントを思い返す。
『ケンジは偽善的な女性を一番嫌う。笑みにも憂いがあり、困難な問題にも真っ直ぐに取り組む正義感を持つ女性』
「ご注文は?」
「コーヒーをお願いします」
『統計的には髪は長くて、潤んだ瞳と澄んだ声。雰囲気として、森の湖の静けさを感じせる……』
ウインドーの陽射しを浴び、時折カウンターでコーヒーを淹れるマスターを見て微笑み、暫くして怜奈がコーヒーをテーブルに置くと、香りを嗅いでから一口飲み、『美味しい』と唇を指先で押さえて囁く。
『キュートと美人の中間で、気品のある可愛さを兼ね備えた女性。そして絶対的な条件はケンジを冬の哀しみから救える、運命的な女性である事』
『そんな女性いるわけないわよ!』
最後はそんな言葉で締めくくられ、笑いとため息が混じり合ったコメントが慎ましやかに綴ってあった。
怜奈はその女性客がコーヒーを飲み終えて出て行くと、数分後にマスターに「辞めます」と言って早退し、翌日に失礼なことをしたと後悔して『Maybe』に謝りに行ったのだが、その女性が楽しそうに働いているのを見て、唖然として顔も出さずに帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます