デジャブの謎解き

 賢士はシャワーを浴びて汗を流し、上半身裸で生乾きの髪をタオルで拭き、iPhoneを手にしてリビングへ向かい、画面の時計表示07:46を見て、カレンダーの日付を勘違いした事と、薔薇のツルの冠をした血の顔が鏡に映った感覚を思い返す。


既視感デジャブにしてはリアル……』



 相模大野のマンション。朝食を済ませてリビングで矢島輝がネクタイをして会社へ行く準備をしていると、賢士から連絡があり驚いてガラケーを開く。


「ケンジか?」


 キッチンで後片付けをしていた妙子も手を止めて、携帯電話を耳に当てた輝の顔を眺め、賢士との会話に耳を澄まし、この時間に賢士から電話があるのは珍しいとアイコンタクトを送る。


「どうした?何か事件か?」

「そんな驚くなよ」

「しかし大地震でもない限り、そっちから電話してこないだろ?」

「過去……もしくは未来で、何か約束した覚えはないか?」

「約束?そう唐突に言われても困るが、未来はともかく、現時点では特にないと思う」


 輝は妙子の方へ視線を向けて、賢士が変なことを言ってるとジェスチャーで教え、妙子もサイレントで『why?』と両手を広げた。


「妙子にも聞いてみようか?」

「いや、もういい。ありがとう」

「そ、それだけか?」

「うん。アキラの声を聴けて良かったよ」

「えっ……」


 一瞬、輝の顔が水飴のように溶け、ガラケーの小さな画面を見つめて『俺も』と呟き、キッチンから歩み寄った妙子が正気に戻す。


「なんだって?」

「俺の声を聞きたかったようだ」

「それは相当おかしいわね」

「いや、友情を確認したかったんだろ?」

「逆ならわかるけどさ」

「過去か未来で、何か約束してたかと聞かれた。まったく、変な質問をしやがる」

「心配だから、私あとで電話してみるよ」

「頼む。もし何かあったら、仕事中でもいいから電話くれ」


 輝は東急系の不動産会社に勤め、妙子は賢士の母親が経営する横浜のブティックで店員をしている。壁の時計を見て輝が鞄を持って玄関に向かい、妙子も急いで出勤の準備を始めた。


 電話を終えた賢士は白いTシャツを着て、壁側の木製デスクの席に着き、ノートPCの電源を入れて『恋のリベンジ』サイトに書き込まれた山崎貴子のメッセージを見て推理をする。


『理想の恋人について、メンバーが動き出した。天使が見守っているのも同じ理由なのか?』


 賢士は微かな記憶を手繰り寄せ、輝が過去に重要な約束をし、未来で賢士に打ち明けようとしたのではないかと推理した。(その約束とは鈴木悠太が過去に書いた手紙であるが、賢士は既視感デジャブの朧げな感覚の中に、時の真実が隠されていると疑った。)


 金髪の天使は賢士の記憶を完全に消したと想定したが、賢士は青い瞳のアイテムを借りなくても天使を視認し、タイムリープの記憶を残す能力を有していたのである。

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