幽霊と触れ合う
天使は賢士とマリアが言葉を交わして惹かれ合い、順調に時が進んでいると腕時計を見て頷き、次のポイントを偵察しに藤が丘の教会へ向かう。
この時、賢士は青い瞳を輝かせて夜空を見上げたが、歩み寄るマリアに視線を移し、澄んだ瞳から零れた涙が唇を濡らすのに魅了された。
「僅かな時間でしたが、マスターは最高の友だちでした。実は亡くなった祖母が、優しい笑顔で淹れるマスターのコーヒーが大好きだったのです」
マリアの悲しみは悠太の事故死と、病いで死んだ祖母の涙の結晶だった。『Maybe』に来店したのは偶然ではなく、祖母がベッドでマリアの手を握ってコーヒーの香りを遺言にした。
「二人の死が涙の洪水の原因?」
「祖母の話を伝える前に、マスターは悲惨な事故で亡くなった。ほんとついてないですね」
「そうとも限らない。あなたは僕とめぐり逢い、祖母の想いを語っている」
賢士はクールな眼差しをマリアに向けて超然と佇み、光彩が映る瞳の幻惑と翼を持つ者が夜空を横切った事に不信を抱き、超常現象が起こっていると疑う。
「試してみませんか?」
「えっ?何をです」
「さっき、マリアさんは僕に見えるのですね?と言って驚いた。暗がりとはいえ、印象的な質問だ。もちろん僕が気品のある魅惑的な女性だと思ったのは嘘ではない」
マリアも賢士を一目見て、幽霊なのに心臓がドキドキして、恋の感情が湧き上がっていると素直に認めた。
「私もあなたに心惹かれています」
「では、右手を前に伸ばして」
「はい、こうですか?」
「僕の想像が正しければ、僕とマリアはめぐり逢う運命だった」
「過去形なのですね?しかも、マリアと馴れ馴れしく呼んでいる」
「ケンジと呼んでください。それに時間は一瞬で過去になりますが、想いは過去から未来へ向かっています」
マリアの右の手のひらに、賢士が左の手のひらをゆっくりと近付け、数ミリの距離で静電気が発生し、接触させると青い火花が飛び散り、マリアの全身が青白く輝き、「やだっ、ケンジ……」とマリアは恥ずかしそうに手を引き、賢士は俯いたマリアの肩を掴んで抱き寄せた。
「ほら、触れ合えた」
「ええ、でもムリです」
マリアは微笑む賢士と見つめ合い、『幽霊ですから』と告げようとしたが、夜空に教会の鐘の音が鳴り響き、別の言葉を投げかけて坂道を走り出す。
「さようなら。とても楽しかったわ」
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