第16話 遠足当日

 そして遠足当日を迎えた。他の生徒もどんどん校庭に集まってきた。この後、時間になったら先生の話しがあり、班に分かれて公園のあるキャンプ場へと向かう。


 学校からキャンプ場の距離はそこそこ離れており、徒歩で2時間半かかる。着いたらおそらく11時前後、すぐに料理を作り始める必要があるだろう。


 俺は1人、校庭で班のみんなを待っていた。しばらくして全員休みという最悪の結末を考え始めたとき、優希がやって来た。


 「おはよう、真一。」


 「おはよう。焦ったぜ。みんな体調不良で俺1人かと思ったよ。」


 「それはないよ。何かあってもRINEくらいするから。」


 「そうか?なら、良かった。」


 「ほら、そんなこと話している内に克人も来たよ。」


 確かに奥の方から大きな人が近づいてきている。

 あれだけ大きいのだ。とても目立っている。


 「おはよう、真一、優希。」


 「「おはよう。」」


 今日の服装は制服ではなく、私服で来るように指示があった。それぞれが自分が動きやすいと思う服装をしてきている。荷物も重くなり過ぎないように工夫している。

 とは言っても俺と優希は、武器や防具を優希の収納魔法に仕舞ってもらっている。やろうと思えば手ぶらにすることもできるが、それでは悪目立ちするため遠足に使う普通の荷物は持って行くことにしている。


 「料理に使う材料忘れてきてないよな?」


 「流石に気を付けているよ。」


 「俺も大丈夫だ。信用してくれて良いぜ、真一。」


 「なら、良かった。白ご飯だけの昼食は嫌だからな。」


 そうこうしていると、学校を出発する時間になった。俺たちは、歩きながら親睦を深めた。お互いの面白いエピソードを語り合った。しばらく話していると話題は、近くに起きるであろうダンジョン大氾濫の話しになった。


 「そろそろ期日が来るってテレビで言ってたな。」


 「あの管理者の発言から今日で3週間経った。ダンジョンの氾濫まで、あと1週間しか時間がない。その割に具体的な解決策を政治家は見出せていないね。」


 優希の言う通りだ。テレビで期日が迫っていることは伝えられているが、解決策として挙げられるのは自衛隊や警官、消防等の増員だけで、一般に開放するという話しは全く進んでいない。人員が足りていないのは、目に見えている。


 「このままだと多くの被害者がうまれるだろうな。」


 「でも、高校生の俺たちにできることはないだろう、真一。」


 「そうだね。例え、僕たちに力があっても、現場で動く人の邪魔になるだろうね。法律が整備されていないのに、未成年を戦わせて死なせたら非難されるだろうからね。」


 今後の先行きを考えると3人の雰囲気が重くなる。先程まで楽しく話していただけに、今の空気は重過ぎた。


 「やはりダンジョンの一般解放を待つ感じか?」


 「そうだね。」


 そこまでで、ダンジョンの大氾濫の話しをやめた。空気を入れ替えるために、他の話しをすることにした。


 そうこうしている内に俺たちは、目的地であるキャンプ場についた。よくダンジョンに潜っている俺と優希にとって対した距離ではないが、どうやら周りの生徒はそうではない様子だ。


 まぁ、受験が終わったばかりで運動してなければ、こんなものか。しかし、見た目通りに克人も平気そうだ。


 俺たちの班は、到着してすぐに昼食の準備に入った。このキャンプ場の管理人さんから鍋に薪、調理器具を支給してもらう。


 石でできたかまどに薪をセットする。そして、俺は周りに人の目がないのを確認して生活魔法で火をつけた。すると、1発で薪に火がついた。



 「本当、便利だよな。」


 思わず口に出てしまう。


 「それはそうだよ。そういう魔法なんだから。それに、いくら人目がないからって無用心だよ。僕にだって(魔法が使われたって)分かるんだからね。注意してよ。」


 「悪い。火をつけるのが面倒くさくてさ。」


 優希は、ため息をつくと準備に戻っていった。その間俺はこの火を調節しておく。ゆらゆらと揺れる炎に目を奪われていた。


 「カレーの準備できたからかまどに鍋をおいていいか?」


 「…おっ、おう。いいぜ、克人。」


 かまどに鍋をセットすると優希と克人はカレーを作り始めた。その間、俺はしゃがんで火の調節を行う。薪を調節して火力が上がり過ぎないように調節した。すると、だんだん上の方からカレーの良い匂いがし始めた。


 「早く食いたいなぁ〜。」


 「もうすぐ完成だ。」


 「真一は、ご飯の用意をしてくれるかい。」


 最後に各自で持ってきたご飯にカレーをかける。こうして俺たちの昼食となるカレーライスが完成した。


 「美味そうだな。」


 「味はどうだろうね。」


 「俺が少し隠し味にリンゴを入れたから味が少しまろやかになっていると思うぞ。」


 「それは楽しみだ。それじゃあ。早速。」


 「「「いただきます!」」」




◇◇◇◇◇◇


 「「「ごちそうさまでした。」」」


 俺たちは、カレーをしっかり完食した。

 食べる前に克人が言っていたように味がまろやかで大変美味しかった。


 「美味しかったよ。2人ともありがとう。」


 「真一も火の調節が良かったよ。」


 「おう。真一の火が安定しているおかげで、火の通りも問題かったしな。大成功だぜ!」


 その後、俺たちは後片付けを始めた。

 灰だらけのかまどの掃除をしたり、返却する調理器具、持ってきた皿を洗ったりした。

 それが終われば後は、自由時間だ。


 自由にキャンプ場内を歩き回ることができる。大人も遊べるアスレチックがあったり、キレイな庭園を見ることができたり、森の中を歩くこともできたりする。


 「あぁ〜。やっと終わった。」


 「炭がついて落とすのが大変だったね。」


 「2人ともお疲れ。」


 「克人もお疲れ様。鍋や皿洗いを全部任せたけど大丈夫だった?」


 「問題ないぜ!そっちの方が大変だったと思うぞ。」


 「まぁな。」


 本当にかまどの掃除は、大変だった。擦っても擦っても黒ずみが落ちないし、自分たちが来る前からあって落ちない汚れなのか分からない。終わりのない掃除をしていた。


 「さてと、これから13時まで自由時間だけど、どうする?」


 「特に決めてないね。」


 「ならみんなで一緒に森の中歩かないか。緑が多くて気持ちが良さそうだし、どうだ?」


 克人の提案に賛成した俺たちは、森の中を歩くことになった。荷物は、先生が休む東屋で預かってもらうことにした。


 森の中に入ると、日の光が木の葉の間から差し込み幻想的な空間が広がっていた。空気も澄んでいて気持ちが良い。唯一問題があるとすれば、足場が悪く上を向いて歩けないことかな?


 森の道は踏み固めたような道であるため、とても整備されているとはいえなかった。

 足元が悪い森の中を歩くのは久しぶりだが、なかなか悪くないな。今度、朝のランニングに山道を加えてみるかな。ダンジョン攻略の良い練習になる。どこまでいってもこの男はダンジョン中心である。


 歩いていると俺たちは一本の大きな木の前にやってきた。なんの木だろうか。その木の周りだけは整備されていた。周りに木がなく広場のようになっており、その木だけがポツンと立っていた。


 「不思議な場所だな。」


 「そうだね。何か謂れのある木かもしれないね。」 


 「大きな木だなぁ。」


 木に近づいていくと、俺は何かの気配を感じた。この気配は覚えがあるな?確か!

 俺と優希は、顔を見合わせるた。

 そう、この気配はダンジョンの気配だ。


 「克人!戻れ!」


 俺は一番木の近くにいた彼の名前を呼んで近づいた。優希も俺の後を追った。


 「どうしたんだ?」


 どうやら克人は何が起きているのか、理解していないようだ。ようやく俺たちが克人に追いついたそのとき、克人の指が木に触れた。その瞬間、俺たちの視界は光に包まれた。


 次の瞬間、目を開けるとそこには見たことがない森が存在していた。

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