第10話 優希の決意
こうして大人たちの予定通りにスキル[適応]の効果を知らされた俺たちは、ダンジョンの探索を再開した。
「次、優希の番な。」
俺がそういうと、槍とナイフを渡す。
すると急にじいちゃんが口を挟んできた。
「すまんが、優希君が戦う魔物はワシが選ばせてもらう。」
「別に問題ないですよ。」
突然のことに少し驚いたが、優希は心良く了承した。すると、じいちゃんを先頭にしてダンジョンの中を歩き始めた。
しばらくとスライムと遭遇した。しかし、じいちゃんはあっという間に倒してしまう。その後、狼、スライムと続けて遭遇したが全てじいちゃんが倒してしまった。
「じいちゃん!何で倒しちゃうんだよ?優希に何で戦わせるんじゃないの?」
そんな俺に返事をせず、じいちゃんは黙って歩き続けた。
俺は思わず優希の方を見た。文句を言うように言おうとしたら、優希は何かが分かったような顔をして僕に小さく首を横に振った。
その後、俺は静かにじいちゃんの後をついて行った。
何回か魔物とも戦闘を挟んだが、ようやくじいちゃんが止まった。
「よし、優希君にはあれと戦ってもらう。」
そう言ったじいちゃんの視線の先には、ゴブリンがいた。俺はなんだゴブリンかと思った。これなら別に他の魔物でも良くないかと感じた。そのゴブリンは真一が戦ったときとは違い、棍棒を持っていた。
「なんとなく、想像はしてました。最初にスライムを倒したときに、いずれゴブリンを倒すのだろうと考えていました。しかし、想像よりずいぶん早くにきましたけど。」
優希は静かにそう言った。
そこまで聞いて俺は、思い出した。初めてゴブリンを倒したときのことを。あのとき俺は、人型の魔物を殺したことに戸惑い吐き気を催したんだった。
そして当然、優希も俺と同じである。
「まぁ、そこまで自覚があるなら問題あるまい。どうするかね?ワシらが抑えたところを倒すか、それとも1人で倒すか?もちろん、危険があれば助けるから心配はせんでよい。」
優希は覚悟を決めていたのか、すぐに答えた。
「いいえ、1人で戦います。」
「うむ、わかったのぉ。」
「軽い怪我は治すから心配しないでね。」
「優希………信じてる。」
他にもっと言うべきこといろいろはあった。例えば、ゴブリンの特徴や、相手の攻撃方法、戦う心構えにいざとなったら自分が助けることも。
しかし、俺の口から出たのは、そんな言葉だった。なぜだろうか、この言葉が最適だと思った。
優希は槍を構えて確かな歩みでゴブリンに近づいていった。そしてついにゴブリンが優希に気付いた。
優希はすかさず槍を構える。その矛先は、恐怖からかプルプルと震えていた。なかなか狙いが定まらない。そんな優希に構うことなく、ゴブリンは棍棒を振り上げ襲いかかる。
「頑張れ、優希。」
思わず、声をかけてしまった。その声援のおかげか、優希は冷静にゴブリンに槍を突き立てた。槍はゴブリンの腹を貫いた。
「やった!」
喜ぶ優希を不幸が襲う。槍が抜けない。先程、覚悟を決めて強く突き刺したために深く刺さりすぎてしまったのだ。
槍を刺されて怒り狂うゴブリンは棍棒を振り回す。さらに槍は抜き辛くなった。こうなったら、槍を離して別の武器で戦うしかない。しかし、突然の事態に焦る優希は槍を手放すことができなかった。
すると次の瞬間、優希の腕に棍棒が当たった。怒るゴブリンは何度も優希を棍棒で殴った。思わず槍から手放した優希は後ろに下がってきた。
殴られた左手を庇いながら歯を食いしばって痛みを堪えている。俺は思わず飛び出しそうになったが、じいちゃんに止められた。
「離してよ、じいちゃん‼︎優希を助けないと‼︎」
そういう俺にじいちゃんは冷静に言った。
「優希君が助けを求めたならそうすれば良い。じゃが、彼はまだ諦めておらぬようじゃが?」
そう言われて優希を見ると確かに目がまだ死んでない。
まだ、諦めてない。
「彼はお主に少しでも近づくために今戦っている。その覚悟を踏みにじるつもりかのぉ。」
それ以降、俺は何も言えず黙って優希の戦闘を目に焼き付けた。
優希は今、左手を使えない。使えるのは右手のみだ。
これからどうやって戦うのだろう?
すると優希はゴブリンから距離を取り、時間を稼ぐと右手を左手に向けた。そして、何かを念じるかのように祈りだした。
もしかして、魔法を使おうとしてる⁉︎
できるのか、まだ何も学んでいた優希が?
そんな中、優希の右手が光り出した。魔法を使えたのだ。でも、効果はあるのか?
そんな俺の気持ちが聞こえたかのように優希は、左手を動かし始めた。治ったことを確認するかのように。どうやら、優希はこの土壇場の展開で回復魔法を覚えたのである。
俺は思わず優希に抱きつきたくなった。だが、まだ戦闘は終わっていない。
腹に槍が刺さって抜けないゴブリンは、暴れたせいか傷口が広がりかなり弱っているようだった。そんなゴブリンに優希は一気に近づくと、ナイフを取り出し首を切った。
その瞬間、ゴブリンの動きが止まり最後は光を放って消えた。ゴブリンがいた場所には赤い石が落ちていた。
「……やった……。」
優希はぽつりとそう言った。
そんな彼に勢いよく俺は抱きつく。
「おめでとう!優希、よくやったなぁ!」
満面の笑みで俺は言った。するとようやく勝てたことを実感したのか、優希は笑顔を返してくれた。
「ありがとう、真一。応援してくれて。」
「別に気にするなよ。それよりも、腕大丈夫か⁉︎早く山田さんに見てもらわないと。」
俺は思い出したかのようにそう言った。
大丈夫だという優希を強引に山田さんの前に連れてくる。
「うん、問題ないね。ちゃんと回復しているよ。」
「山田さん、本当に⁉︎良かったぁ。」
俺は疲れてその場に腰を下ろした。
すると、大人たちが集まって少し話し始めた。
しばらくすると、今日のダンジョン探索はこれで終わりにすることになった。本当なら、もう1度真一が戦う予定だったが、子どもたちの疲れを考慮して引き返すことになった。
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