第9話 スキル[適応]の秘密
俺は、狼に辛くも勝利した。
戦闘が終わり、一息つく。すると、戦闘中には気にならなかった左手の傷がひどく痛み出した。
「いっ、いて〜〜」
俺は痛みを堪えるように左手を抱え、しゃがみ込む。
すると、戦闘を見ていた3人が近づいてきた。
「優希‼︎大丈夫かい⁉︎」
「まぁ。こうなるとは、思っておったわい。」
「それにしても、あそこまでとは。」
納得した表情の大人たちと逆に、優希はひどく動揺していた。
「すみません!2人とも、話してないで早く真一の傷の手当てをしないと!」
怪我した真一を見て、ゆっくり話している大人たちに優希は大きな声で言った。
「あぁ、すまないね。とりあえず、傷を治そうか。」
そういうと山田さんは、しゃがみ込む真一に手を向けて魔法を放った。辺りが優しい光に包まれる。
しばらくすると、俺は痛みがなくなっていることに気がついた。よく見ると、左手腕の傷は治ってた。
「おぉ、、。治ってる‼︎」
「まぁね。とはいえ、僕は魔法使いだから神官と違って簡単な回復魔法しか使えないけどね。」
「回復魔法って一瞬で治せるんだ。」
「ちなみに向こうの世界では、回復魔法を使えるのは教会に所属する神官の一部だけでほとんど使える人はいないよ。もし、教会に所属してなくても使える僕みたいな人がいれば、それだけで貴族になれたかもしれないくらいには珍しいよ。まぁ、僕みたいな人は使えることを隠し続けるだろうけどね。教会と揉めると面倒だから。」
「へぇ〜。」
俺と優希は、山田さんの凄さに驚いた。すると、優希が聞いた。
「僕も使えるようになりますか?」
優希は、真剣な目で山田さんを見つめている。
憧れやカッコいいからみたいな雰囲気ではない。
「可能性はゼロではないよ。」
それ言葉を聞き、優希は小さくガッツポーズをした。よほど嬉しかったようだ。
すると、話しが終わったのを感じたじいちゃんが俺に話しかけてきた。
「真一、お前はなぜ1人で戦おうとした。」
別に怒っている様子ではなく、何かを確認するようだ。とりあえず、俺は正直に答えた。
「えっと、何となくだけど?戦っているときは、俺が倒してやるみたいに感じてたんだけど、今はそこまででもないし。特に理由はないかな?」
すると、大人たち2人は向き合って、1つ溜息をした。じいちゃんが俺の方を向き説明し出した。
「おそらくお主のスキル[適応]が悪い方に働いているのしゃろう。このスキルは、所持者があらゆる環境に慣れるというものじゃ。向こうでは、世界中を駆け回る伝説の冒険者が持っていたという記述があるほど、有名かつ貴重なスキルじゃ。」
「しかし、それのスキルがこの世界では悪い方にも働いてたのじゃろう。今この世界でそのスキルが使用できるのは、魔力があるダンジョンだけじゃ。そのため、ダンジョンに適応するように力が働く。」
「その結果、お主は魔物と戦えるように相手を傷つけることに対する躊躇いがなくなったり、敵を倒すため危険を顧みずに行動したりするようになったとワシらは考えておる。」
「じゃから、今後は自身のスキルを上手くコントロールできるようにならなければな。」
驚きの事実だ。確かに、魔力があるところでしか使えないならダンジョン内にのみ適応するように力が働いてもおかしくはない。しかし、俺には1つの疑問があった。
「それにしても、じいちゃんは何で早くそのことを教えてくれなかったんだ?」
「理由は、簡単じゃよ。事前に説明されるよりも今聞いた方が理解できるじゃろう。百聞は一見にしかずじゃ。」
そういうことだったのか。
「さらにいうと、お主の様子を見て優希君に危機感を与えるためじゃ。」
「優希に危機感を?」
俺と優希は、お互いに顔を見合わせる。
「おそらく、優希君は今の自分とお主との差を実感したはずじゃ。お主らはこれからチームを組むのじゃ。そうなれば、いつかまた今回のように真一が暴走しないとも限らない。そのとき優希君は、真一を止めることができるのか。こんなことが起きないようにしっかり手綱を握っててもらわんといかんからのぉ。」
なるほど、だから優希を先に魔物と戦わせたのか。俺との差がわかるように。
「てっ!俺の手綱を優希が持つってどういうこと‼︎⁉︎」
「お主は、バカじゃから優秀な優希君に任せた方が安全じゃと思ってのぉ。」
「そうならないためにスキルコントロールの修行をするんでしょ。」
「お主がスキルを使いこなせるなら別に問題ないぞ。」
よっしゃあ!!やってやる!!
さっさとスキルを使いこなせるようになってやる!!
SIDE 優希
一方、優希と山田さんはそんな2人を離れて見ていた。
「あれって、真一が上手くじいちゃんにのせられてないですか。」
「確かに上手くのせられてるね。」
「さて、こちらも話しをしようか。優希君には後衛で魔法使い攻撃するだけでなく、前で戦う真一に指示をだす司令塔の役割を担ってもらう。」
「はい。それは分かりました。が、僕に暴走した真一を止められるでしょか?」
優希は、自信がなさそうな様子だ。
そんな彼に山田さんは優しく言った。
「それは、やってみないと分からないね。もし、不安なら僕や真一のお爺さんに相談してみると良いよ。まぁ、でも1番効果があるのはその気持ちを正直に真一君に伝えることじゃないかな。」
「それは、、、、」
かなり悩んでいるようだ。どうするか考えているところに声がかけられた。
「おーい。優希、そろそろ次の魔物討伐に行こうぜ。次はお前の番だ。」
考えるのは後だ。どうせ考えてもすぐに結論は出ない。
ひとまず、今は魔物の討伐に集中した。
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