第11話 話さない*

「それでその霊王の洞窟ってのはどう言う事だ?」

「もしかして何かお宝とかあったりするんだよー! 楽しみー!」

「高級羽毛布団…!」

「…どうやら此処で霊王ジャルデが死んだ事は確からしいけど……」


 俺はダンジョンから得た情報は、なるべくガギル達には詳しくは話さずに言った。


(ジャルデが此処で死んだのは、1人で死にたかったから…何の証拠まで残さずに死んだんだ。そこまでした者の死体を漁る事なんてしない方が良い。ジャルデの過去を言えばコイツらも漁る事はないだろうが…こんな悲しい過去、態々言う必要もない)


「だが、情報はそれだけだ」


 俺が皆んなに言う。

 すると皆んなは先程まで騒ぎ切っていたが、一瞬でやめ、3人で顔を見合わせる。


「そうか」

「残念だねー」

「高級羽毛布団…」


 そして眉を八の字に変えながら一言ずつ言うと、肩を落とした。


 俺はその納得した皆んなの様子に、ほっと息を吐く。


「皆んな、それよりも暖房をこの洞窟に付けてみたんだが、どうだ?」

「えー! 暖房ー!?」

「嬉しい」


 エンペルはピョンピョンと跳ね、ルイエが少し淡々と言う。


「これで俺がワームと散歩しても、皆んなは洞窟に居る事が出来るんじゃないか?」

「…一回試してみるか。俺が洞窟に残るから洞窟の前まで移動してみてくれ」


 ガギルが顎に手を当て、眉を顰めながら言い、俺はガギルだけを洞窟に残し、霊王の洞窟から出る。


 そして数十秒後、すぐに洞窟の中へと入る。

 そこには身体を少し摩っているガギルの姿があった。


「どうだった?」

「ハァ〜ッ…ハッキリ言えば俺はまだ寒い。アノムやルイエは大丈夫かもしれないが、エンペルは俺と同じで、まだアノムについて回った方が良さそうだ」


 ガギルが手に息を吹きかけながら、俺の2メートルダンジョン内へと入ると、強張っていた表情が暖かさで弛緩する。


 なるほど…流石に(小)ではダメだったって事か…此処は生物が生きていけないと言われる北の山岳地帯アルベック。


 ちょっと暖房付けただけで俺とルイエが過ごせる事になったのが凄いと言うべきか?


「そうか、だがこれでルイエは洞窟に残れる様になったな」


 ルイエにそう言った瞬間、ルイエの大きな耳がピクピクと動く。


「う…」

「どうした?」

「……私、アノムに着いてくわ」


 突然ルイエが話し出す。


 前までは洞窟で寝ていたいと言っていた筈だ。それなのに急に何故?


 俺以外の者もそう思ったのか、エンペルがルイエに近づく。


「どうしたのー? さっきまで寝てたいって言ってたのにー?」

「な、何故か此処に居たら嫌な気がしたの」


 ルイエが少し震えながらそんな事を呟き、エンペルがルイエを心配しているのか寄り添う。


 ルイエにしては珍しい反応だ。


「……ルイエが嫌と言うなら、まだ俺達と同行するしかない様だな」

「まぁ、そうなるな」


 俺は頭を掻きながら、ガギルと話し合うのだった。




 *


「第1魔王軍軍隊長、ザノバ。遅ればせながら参上致しました」


 頭に1本ツノを生やした、筋骨隆々な男が謁見の間で片膝を着く。


 その周りには5人の人型の魔物が存在した。


 1人は赤い堅牢そうな鱗と黒光りとした2本のツノ、見事な羽根を持ちーーー。


 1人は上半身が人間の美しい女性、下半身が魚の様な尾びれを持ちーーー。


 1人は勇猛そう空気を身に纏い、鋭い牙に小麦色の立髪を生やしーーー。


 1人は尖った鋭い耳に、黒いマント、異様に鋭く尖った犬歯を持ちーーー。



 その前には2人の四天王が立ち並んで、何の話か判断出来ない程の声量で話をしていた。



「やっと集まりましたか、遅いですよ」

「あぁん? おせーよ、ぶち殺されてぇのか」

「「「「「申し訳ありません」」」」」


 5人は跪いた状態で深く頭を下げる、いや、下げざるを得なかった。


 四天王の2人のプレッシャーは、少し話しをしただけでも軍隊長達には相当負担になっていた。


 いつもとは違う2人の雰囲気に、5人の軍隊長達に緊張が走る。


「まさかカタコトで話させてる事が仇になるとは思いもしませんでしたよ」

「まったくだな。アイツらを育てる為にと指導した事だったんだがな…」


 2人はヒソヒソと声を顰めて話す。


 何を言っているかは分からないが、1人の1本角を持っている者が慎重に声を掛ける。


「…どうかなさったのですか?」


 すると。


「「息子があのクソ魔王に追放された」」

「「「「「は?」」」」」


 2人の四天王、アルス、ガルドはそう言い放ち、5人の軍隊長達からは困惑の声が漏れた。

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